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【茨城】

<ひと物語>有機農業広めたい NPO「あしたを拓く有機農業塾」の代表理事・涌井義郎さん(65)

「原発事故で失った農業技術もある」と話す涌井さん=笠間市で

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 落ち葉を集めて腐葉土を作るなど、農薬や化学肥料に頼らず自然の素材を生かした「有機農業」を一から学べる塾を、二〇一一年に笠間市内に開いた。「農薬は自然環境を傷つける。各地の伝統農業技術をよみがえらせ、新しい科学の成果と組み合わせれば農薬を使わなくても何でも育ちます」。今年二月には教本も作製した。

 塾の研修生は一〜二年間、一・五ヘクタールの農園にほぼ毎日通い、トマトなどの約四十種の野菜や小麦、大豆など栽培の基本を一通り学ぶ。「できるだけお金をかけず、農業で自立させてあげたい」と、授業料は取らない。塾の運営費は、この農園で育てた野菜の売り上げを充てている。この学び舎(や)を巣立った十一人は、県内で就農した。

 もともと水戸市内にある農業専門学校「鯉渕学園」の教員だった。二十代の生徒に教えるかたわら、「Iターンなど、三十代から農業を学べる場所が社会にない」と感じるようになった。農家の減少が課題となる中、新規就農者の助けになろうと、開塾を決意。一〇年末、早期退職した。

 準備を進めていたところ、東京電力福島第一原発事故が起きた。すぐさま脳裏に、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故がよぎり、「福島の事故の影響がこの土地にも影響する」と感じた。案の定、土壌の汚染や風評被害など、影響は小さくなかった。

 さらに「原発事故で失ったものの中には農業技術もあるんです」とも指摘する。茨城や栃木には山の落ち葉を集めて腐葉土をつくる農家が多くいたが、山に放射能が降り注いだため、落ち葉が使えなくなったという。いまだに一部の地域では使えない状況が続く。

 「汚染されたものを使うな、といわれたら使わないでしょ。使わないでいると、その技術を失う。農家が地元の落ち葉で作った腐葉土を使うと、農薬がなくてもいいベースができていたのに。ですから、原発事故はいろんな影響を及ぼしている」

 原発事故による放射能汚染と農薬を使うことには、共通項がある。「人体への影響だけでなく、環境を壊すこと。環境を壊すと人間も生き物も生きられない」

 だからこそ、日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働には危機感を覚える。「最悪の環境汚染の危険をはらむ原発は、断じて容認できません」。安全を求める農業者としての立場から、原発に警鐘を鳴らす。(山下葉月)

 

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