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【神奈川】

<かながわ平成ノート>(2)坂本弁護士一家殺害事件  カルト犯罪 社会に衝撃

「オウム関係者の死刑が執行された昨年は、われわれにとっても節目だった」と語る森山さん(右)と、米村さん=横須賀市で

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 ぽつぽつと降る雨が、境内の木々をぬらす。文化の日の昨年十一月三日、鎌倉市の円覚寺。「涙雨かな」。男女のグループが誰ともなくつぶやいた。

 一行は、一九八九年十一月、オウム真理教幹部らに妻都子(さとこ)さん=当時(29)、長男龍彦ちゃん=同(1つ)=と共に殺害された坂本堤(つつみ)弁護士=同(33)=の県立横須賀高時代の級友。三人の遺体が見つかった九五年以降、命日に合わせて、寺にある墓参りを続けている。

 バブルの狂乱など、既存の価値観が揺らぎ始めた昭和の終わりから平成初期に、若者らの求心力を高めたオウム。その被害を訴える信者家族を支援していた坂本弁護士が家族もろとも姿を消した事件は、社会に大きな衝撃を与えた。

 教団が関与を否定する中、全国の弁護士らは捜査強化を求め、署名活動を展開。協力した級友の森山武さん(62)は、街頭で「頑張れ」などと温かい励ましの言葉を数多く掛けられたと振り返る。「坂本が、厳しくオウムに立ち向かっていたことを報道などで知っていたからだろう」

 墓参りを続けるのは、無念の死を迎えた友への弔いに加え、残された坂本さんの母さちよさん(87)への思いから。「自分たちも子や孫を持つようになり、悲しみがより分かるようになった」と森山さん。

 麻原彰晃(本名・松本智津夫)元代表ら教団関係者全員の死刑が執行された昨年は、十四人が集まった。森山さんは「あんたがいなくて残念だ」と語りかけ、小六から同じ塾に通った米村千昭さん(62)の願いは「お母さんを守ってあげてね」。線香を上げる頃には、雨はやんでいた。

 事件後、教団は凶暴化の一途をたどり、国内最悪の無差別テロとなった地下鉄サリン事件(九五年)などを起こす。教団を追ってきたジャーナリスト江川紹子さん(60)は「オウムは、社会の行く末を先取りした存在だった」と考える。

 教祖は正しく、社会は悪いと信じ込み、犯罪を重ねた教団。その発想は、極端な考え方を絶対視し、敵対する人たちを攻撃するヘイトスピーチやネット上の過激な書き込みなどの現象と重なる。「カルト性を帯びた言動が、社会に薄く広く浸透してきている」

 江川さんは事件を過去のことと考えず、次の世代に引き継いでいくのが重要と指摘する。ただ、永久保存が決まった一連の刑事裁判の記録閲覧を検察に求めても、「刑事確定訴訟記録法に基づき、刑の確定後三年以上たっているのを理由に認められなかった」という。「信者がオウムに入った理由など、裁判には重要なヒントが詰まっている。後世の人の参考になるこうした貴重な情報を、広く見られるようにしていかないといけない」 (福田真悟)

<坂本弁護士一家殺害事件> 1989年11月4日未明、横浜市磯子区の自宅アパートで、一家3人がオウム真理教幹部らに殺害された。現場から教団のバッジが見つかり、オウムの関与が疑われたが、解決できないまま95年の地下鉄サリン事件などが発生。3人の遺体は同年、富山や新潟県などの山中で発見された。

 

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