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【神奈川】

<かながわ未来人>レトロの町、広がる交流 「感じる芸術祭」立ち上げ・卜部美穂子(うらべ・みほこ)さん(36)

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 真鶴港を囲む段々畑のような斜面に、色とりどりの屋根が並ぶ。どの家からも海が見渡せ、背戸道(せとみち)と呼ばれる狭い路地が家並みを結ぶ。語らう住民の小さな人だまりが温かい。

 「過去も現在も未来も、きっとこのままの風景なんだろう」。横浜市立小の非常勤講師や小田原市の英会話教室講師を経て、二〇一二年に嫁いだ真鶴町のレトロな雰囲気に魅了された。全国に先駆けた「美の条例」で、リゾート開発の波から守られた景観と知った。

 条例は「舞い降りる屋根」「少し見える庭」「お年寄り」など抽象的な六十九の言葉で美の基準を設け、数値規制はない。建物ができる際、町は施主側と相談し、最適な解を探っていく。コミュニティーを重んじ、高齢者らがいる生活風景自体を美と見る条例に感動した。

 「町の景色を保つ一人になりたい」と五年前、「感じる芸術祭 真鶴まちなーれ」を住民たちと始めた。町の風景全体をアートと見て、空き店舗や高台、港などに作品を点在させ、背戸道を巡りながら来場者を導く。道中の会話が楽しい。

 第一回は三百五十人だった来場者は次第に増え、地元の干物店や石材店、農園、陶芸家、各種サークルによるワークショップも定着した。交流が広がるにつれ「皆が生きづらさを感じない、全ての人に居場所がある社会であってほしい」との思いが強まる。

 心理学を学んでいた学生時代、うつ病を発症した知人が自殺した。「病気になってごめんね」と自身を責める知人に、「大丈夫だよ。このままでいいじゃない」と話したが、何もできず救えなかった。「家にこもり一人で病と闘う人が多い。もっと町へ出てみんなで支え合えれば」と願う。

 多様性のあるコミュニティーを研究するゼミの聴講生として四月から週一回、八カ月の長女を連れて母校の立教大大学院へ通学している。来年は博士課程に進み、発達心理学を数年かけてじっくり学ぶ。経済的な理由で進学できなかった人が集う「寺子屋」づくりが最終目標という。

 「学ぶ楽しさを知り、誰もが社会を変えられる無限の力を秘めた崇高な存在なんだと、実感できる場にしていきたい」と先を見つめる。 (西岡聖雄)

<真鶴まちなーれ> 作品鑑賞に加え、各種ワークショップでの創作や交流を楽しめる芸術祭。美の条例施行20周年に合わせ、町民有志が2014年に始めた。現代アート作家たちが町内各所で制作した作品を、スタッフが案内するツアー形式で鑑賞する。4回目の今回は3月に16日間開催し、2500人が来場した。

 

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