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【暮らし】

住民参加の治水 もう一度 「ヤナギ並木消え 崩れた護岸」

豪雨の影響で削れた川岸を確認する酒井寛さん(左)と新村安雄さん=岐阜市内で

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 西日本豪雨など記録的な大雨による被害がここ数年、各地で発生している。本紙生活面で五月まで「川に生きる」を連載した魚類生態写真家の新村安雄さん(64)は、流域の被害軽減に向けて「沿岸住民の知恵や経験を生かす」ことを提言する。約二十年前に改正された河川法では、治水や利水に住民が参加する趣旨が盛り込まれたが、新村さんは「その精神が後退していると感じる」と危機感をにじませる。 (出口有紀)

 河川法は一九九七年に改正。長良川河口堰(ぜき)(三重県)の建設で、住民らによる反対運動が盛んになったことなどをきっかけに、河川の整備計画を立てる際、河川管理者は「関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない」と明記した。

 それから二十年。新村さんは「よい方向にいっていた時期もあったが、最近はそれが薄れている」と指摘する。その例に挙げるのが、長良川が流れる岐阜市の中川原地区だ。

 七月の西日本豪雨では、岐阜県内の各地でも大雨被害が発生。中川原地区では住宅などへの被害はなかったが、川の護岸はひどいところで幅四メートル、高さ二・五メートルにわたって削れた。地区に住む元理科教師の酒井寛さん(73)は「ヤナギがあれば、濁流をせき止められたかも」とつぶやく。ヤナギとは、川沿いにあったヤナギ並木のことだ。

 中川原地区に、現在の堤防が整備されたのは七〇年代。五九年の伊勢湾台風から三年続けて浸水被害が発生し、地区で堤防の改修を求める声が高まった。区画整理して堤防用地を国に提供し、堤防整備が実現。住民が国に用地を提供するのは珍しいというが「皆、自分たちで地域を守るしかないという思いだった」と、酒井さんは振り返る。

 並木が整備されたのは二〇〇二年。根をしっかりと張るため、堤防の崩落を防ぐ効果があるとされるヤナギに住民たちが目を付け、自治会が約四百本の苗木を育て約五百メートルにわたり植えた。河川管理者の国が設置した護岸装置と相まって、酒井さんは「川岸が大雨のために削られることがなくなった」と感じるようになった。長年、長良川を中心にフィールドワークを続けている新村さんは「国と住民が協力して川や地域を守る好事例だった」と話す。

 それが変わったのは昨年三月。すべてのヤナギが抜き取られた。自治会は地権者ではないため、国からこの工事について知らされていなかった。

 国土交通省長良川第一出張所によると、並木の撤去は、川の流量が急激に増えたときに、木が流れをせき止めてしまうところもあり、水圧で堤防に負担がかかりかねないと判断したため。撤去と、七月に護岸が削れたことの因果関係は不明とする。酒井さんは、同出張所の判断に理解を示しつつも「ヤナギを植えた経緯が、担当者に引き継がれていないことが残念」と話す。

 新村さんは、撤去直後にも連載でこの問題を取り上げたが、あらためて「災害対策は国だけでは追いつかない。自分たちの地域を守るため、住民が地元の川に関心を持つという機運が再び高まってほしい」と話している。

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 新村さんの連載は「川に生きる−世界の河川事情」=写真=のタイトルで本にまとめられた。長良川河口堰稼働後の川の変化、国内外各地の川にまつわる風習、川を生かし守る取り組みなどをつづっている。四六判、192ページ。1404円。(問)中日新聞社出版部=電052(221)1714

 

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