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【暮らし】

<家族のこと話そう>定年夫への不安をネタに エッセイスト・小川有里さん

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 会社員だった夫(78)が定年退職してから十八年。私も七十代になり、いかに家事を減らしていくかが課題になりました。妻が夫に「私も年だし、疲れてるから家事をやって」と強気に言わなきゃいけません。

 今春、毎週水曜日を「晩ご飯作らんデー」にしました。各自が冷凍したおかずから食べたいものを選びます。夫は「自分で作って」と言われることを恐れてか、反抗しませんでした。

 夫が退職する前から「何もしない夫が、これからずっと家にいる」という危機感がありました。動かずに、私の作るご飯を待っているだけの夫に「自分のお昼は作ってね」と言ったのが、最初のパンチでした。昼食の準備で、私の仕事に支障が出ることも大きかったです。

 不安な気持ちを、週刊誌で連載すると好評でした。当時は「定年後の夫がうっとうしい」とは言えない雰囲気でしたし、夫が会社員というライターが少なくて珍しかったのかも。夫に内緒で書き、本になってから渡しましたが、夫は何も言いませんでした。私にも、私の作品にも関心がないですから。

 もともと小さいころから、本を読むこと、書くことが好きでした。小学五年の時、左官の父親が大けがをして働けなくなりました。母親が会社勤めをしながら、農作業や家事もしていました。中学二年の時、働きづめの母を題材に俳句を作り、学習雑誌で特選に選ばれました。

 でも、母は明るくて苦労を蹴飛ばすような人。私が「お母さんみたいに苦労したくない」と言った時、母は「私はとっても幸せ。苦労なんてしてない」と答えました。両親とも亡くなりましたが、一番尊敬するのは母です。

 二十二歳で結婚し専業主婦に。子育てが一段落した三十代から、雑誌や新聞にショートショートと呼ばれる超短編小説などを投稿しました。書いていると夢中になれ、十年で四百作ほどになったと思います。採用率も高く「プロになれるかも」と思った時、雑誌の編集長から誘われ、四十代でライターになりました。

 決められた行数や締め切りを守るからか、仲間のつてで仕事は途切れていません。忙しいですが、暇よりいいです。働き者の母のDNAを受け継いだのでしょうね。

 夫は「好きなようにして」と、私には何も言いません。不満に思っていても言わないタイプで、私とは正反対だから、バランスが取れているのかな。できた夫だったら、定年夫のエッセーは書けなかった。でも最近は、私も年を取ったからか、夫に憐憫(れんびん)の情が湧き、きついことを書くのが気の毒になってきました。

 聞き手・出口有紀/写真・池田まみ

<おがわ・ゆり> 1946年、高知県生まれ。介護雑誌などのライターを経て、現在は、新聞や雑誌に夫婦や家族、介護、育児などをテーマにしたエッセーを連載。著書に、定年後の夫婦がストレスをためずに過ごす方法をつづった「定年オヤジのしつけ方」(講談社)、地方紙の連載をまとめた「おばさん百科」(毎日新聞出版)などがある。

 

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