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【暮らし】

はつらつと 一句に託す お年寄り 注目集める「シルバー川柳」

奈倉楽甫さん(右)が会長を務める「名古屋番傘川柳会」。川柳教室は笑いが絶えない=名古屋市内で

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 芸術の秋。各地でお年寄りグループが創作活動にいそしんでいる。中でも近年、注目を集めつつあるのが、老いを笑い飛ばし、はつらつと生活するお年寄りを詠む「シルバー川柳」。花鳥風月を題材とする俳句に対し、人情を詠む川柳では、喜怒哀楽を句に託せることも人気の理由の一つ。心の機微を句に託すお年寄りたちを、名古屋市内の川柳教室に訪ねた。 (細川暁子)

 『片足で 立って靴下 まだ履ける』

 「うまいなー」。九月中旬、名古屋市内で開かれた「名古屋番傘川柳会」の川柳教室。「足」がこの日のお題だ。体をまだ思った通りに動かせる安堵(あんど)感と、そんなことを毎日気にしてしまう悲哀を明るく詠んだ愛知県一宮市の山本宏さん(80)の句が読み上げられると、会場から拍手が湧いた。

 山本さんは、会社を定年退職後に、同会に入会して約二十年。作った川柳はノート五十冊分になった。毎日妻と顔を合わせていると、ささいなことでしょっちゅう口げんかをした。「怒る妻から逃れるために、川柳に没頭したようなもの」と笑う。

 しかし、その妻が三月、がんで亡くなった。家に閉じこもるほど気が滅入り、川柳教室も三カ月休んだ。だが、会の仲間が電話や手紙で教室に誘ってくれた。復帰した六月の教室で、こう詠んだ。

 『またたいて いるのはきっと 妻の星』

 「句を発表して人にみてもらうと、自分の気持ちを客観的に見られる。川柳と仲間のおかげで、妻の死から立ち直れた」と、山本さんは感謝する。

 会の会長で同県尾張旭市の奈倉楽甫(らくほ)さんは、九十二歳。「川柳には笑いだけでなく、哀愁や大切な人への思慕が込められている」。伴侶や仲間の死、老いによる不自由…。気落ちすることがあっても、十七文字に気持ちを込め、他の人にも共感してもらうことで前向きになる。「笑いのつぼ、共感できる事柄が似ている人とは仲良くなりやすい。川柳のグループではそういう人を見つけやすいし、言葉やニュースに敏感になるので認知症予防にもなる」と明るく笑う。

 仕事人間だったという同県豊田市の重徳良彦さん(79)も、退職後に川柳を始めた。結婚記念日に、妻と一緒にワインを飲んだことを詠んだ。

 『祝い酒 妻もほんのり 顔染める』

 妻への感謝や愛情は、面と向かうと言いにくいが、川柳でなら伝えられる。「川柳は口下手な男性に向いている。定年後、地域に溶け込めない男性は多いが、川柳は気持ちをそのまま表現すればいいので難しいことは何もない。誰でも始められて、グループに入っていきやすい」と勧める。

◆全国公募も人気定着 今年で18回目

 全国有料老人ホーム協会が、敬老の日に合わせて毎年九月に入選作を発表しているシルバー川柳の全国公募も定着している。一回に三千五百〜一万五千作の応募があり、十八回目の今年は七千八百七十二句が寄せられた。

 『「インスタバエ」 新種の蠅(はえ)かと 孫に問い』

 今年の入選作二十句の一つを詠んだのは、滋賀県草津市の石井丈夫さん(83)。初めて応募した作品が選ばれた。テレビで「インスタ映え」という言葉を聞いて、意味が分からなかったのが創作のきっかけという。実際は孫に尋ねたわけではなく、インターネットで調べて写真投稿サイト「インスタグラム」を知り、自分の知らない言葉があることに楽しさを覚えて川柳にした。

 趣味というにはまだ日が浅いが「ネタになりそうなおもしろい言葉をノートにメモする」という新たな習慣ができた。社会の流行などにアンテナを張り、日々の生活を楽しんでいる。

 

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