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【暮らし】

<食卓ものがたり>欲張ればすべて失う 十分杯(新潟県長岡市)

酒を八分目以上入れると底から抜け出てしまう十分杯を紹介する柴木樹さん=新潟県長岡市で

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 銀色に輝くアルミ製のぐい飲みの中心に、なぜか突起がある。日本酒をそそぐと、いっぱいになる直前、底から漏れ出し、あっという間に空になった。

 「十分杯(じゅうぶんはい)という長岡に昔から伝わる杯です。八分目までは漏れませんが、欲張ってそれ以上そそぐと、全部抜けます」。杯を製造する新潟県長岡市のアルミ鋳物「アルモ」の社長柴木樹(みき)さん(53)が説明する。

 全部抜けるのは、サイフォンの原理を使っているから。水槽の水を外に出す時、水で満たしたホースの端を水槽に入れ、もう一方を外に出すと、水槽を傾けずに水はほぼ流れ出る。両端の高低差などを利用した物理現象だが、杯の突起はこのホースと同じ役割を果たしている。

 十分杯に詳しい長岡大経済経営学部教授の權五景(グォンオーギョン)さんによると、歴史は江戸時代にさかのぼる。長岡藩の三代藩主牧野忠辰(ただとき)(一六六五〜一七二二年)が、十分杯の欲張ってはすべてを失う「満つれば欠く」という精神に感銘を受けた。折しも災害対応などで藩財政は厳しく、忠辰が家臣に倹約精神を説くのに活用したという。長岡では贈り物にも使われたが、それほど認知度は高くなく、町おこしの一環で注目されているのは、ここ五年ほどのことだ。

 柴木さんに十分杯の製作を依頼したのは、市内で和雑貨店「わがんせ」を展開する会社の社長川上恵子さん(51)。十分杯は焼き物だったが、仕組みの再現が難しい。そこで長岡の地場産業でもある鋳物の技術を生かして作れないかと柴木さんに持ちかけ、二〇一三年に完成した。

 完成したアルミ製の十分杯は直径七十ミリ、高さ四十ミリ。重さは約百グラムある。お酒をたしなむ川上さんは自分専用の十分杯を持ち歩いている。ただ「飲み始めると、酒の量はほどほどとはいきませんが」と笑う。アルミ製の杯は熱伝導率が高いため「冷たいお酒は唇でもその冷たさを感じられ、よりおいしく感じられます」。

 文・写真 寺本康弘

十分杯の突起内部の構造例

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◆買う

 長岡駅の駅ビル内にある「わがんせ COCOLO長岡店」では多様な十分杯=写真=を取りそろえる。インターネット販売もしているが、陶器製は店舗でのみ販売。アルミ製の十分杯は5400円(いずれも送料別)。升の十分杯は2700円と2160円がある。問い合わせは、同店=0258(32)0123=へ。

 

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