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【暮らし】

「令和」で注目 万葉集 今に通じる暮らしの苦楽

書店の改元特集のコーナーに置かれた万葉集関連の書籍。問いあわせが相次いでいるという=名古屋市中区のジュンク堂書店で

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 新元号「令和」の出典として注目される万葉集。千三百年も前の歌集だが、盛り込まれた約四千五百首の歌の中には「食」や「家族」など、普段、この生活面で扱っているテーマと共通する題材を詠んだものも多い。三つのテーマごとに味わい方を聞いた。 (山本真嗣)

◆「食」 飲み食べ、人生楽しむ

 醤酢(ひしほす)に 蒜搗(ひるつ)き合(か)てて 鯛(たひ)願ふ 我にな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの) (もろみに酢、蒜をすりあわせて加えた鯛が食べたい。安い水葵のスープは見せてほしくない)

 歌人の長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)が宴会の席で詠んだとされる。万葉集を現在の生活と結びつけて研究する奈良大の上野誠教授(58)によると、醤は大豆の発酵食品、蒜はノビルやニンニクなどを指す。二十年以上前、講演で訪れた大阪府内のホテルの料理長に、歌を基に想像で作ってもらった鯛の薄造りを食べたところ「とてもおいしかった」と話す。

 天皇、貴族から庶民まで幅広い階層の人が詠んだ歌を収めた万葉集には、暮らしの情報があふれている。他の時代の歌集に比べ、酒や食を題材にしたものも多い。上野教授は「宴席で作られることが多かったからでは」と推測。「当時の人が、飲んだり食べたりを含め、人生を肯定し、楽しんでいたことが伝わる」と話す。

◆「シニア」 年重ねることを肯定

 冬過ぎて 春し来(きた)れば 年月(としつき)は 新(あら)たなれども 人は古(ふ)り行く (冬が過ぎ、春が来ると、年月は新しくなるが、人は古くなっていく)

 作者不詳で、上野教授によると、年が新しくなることを喜びながら、人が老いるのを嘆く歌。「人は老いていく時間だけでは行き詰まる。生きていくためには、巡る季節のように循環する時間も必要」と説明。「元号も新しくなって元年に戻る」と話す。

 この歌の後に、やはり作者不詳で、次の歌が続く。

 物皆(ものみな)は 新(あらた)しき良し ただしくも 人は古りにし 宜しかるべし (物は新しい方がいいが、人は年を取った方がいい)

 年を取ると経験が増して世界が広がる。上野教授は「二つの歌で一つのメッセージ。若いことは素晴らしいが、老いることもいいよ、と。人生を肯定する万葉集の世界観」と話す。

◆「働く」 地方赴任 募るわびしさ

 馬並(な)めて いざ打ち行かな 渋谿(しぶたに)の 清き磯廻(いそみ)に 寄する波見に (馬を並べてさあ行こう。渋谿の清らかな磯辺に寄せる波を見に)

 作者は万葉集の編者ともされる大伴家持(おおとものやかもち)。「令和」の引用元になった「梅花の宴」を催した大伴旅人(たびと)の息子だ。七四六年、越中の国守として今の富山県高岡市に赴いた際、宴席で部下らを前に詠んだとみられる。

 「渋谿」は同市北部にある現在の雨晴(あまはらし)海岸のこと。富山湾越しに立山連峰を望める景勝地だ。山口大の吉村誠教授(64)は「国守として治める初めての地で、地元を知り、溶け込もうと気を張っていたのでは」と話す。一方、家持は在任中の五年間で都を思う望郷の歌をいくつも作った。着任当初は気合が入るが、長くなるとわびしさも覚える現代のサラリーマンと重なる。

 万葉集をテーマにした専門施設、市万葉歴史館学芸課長の新谷秀夫さん(55)によると、家持は越中にいる間、四季折々の風物を詠んだ。万葉集に出てくる地名は、都のあった近畿以外では富山県が最多という。「新元号を機に足を運んで」と呼び掛ける。

 *「醤酢に−」「冬過ぎて−」「物皆は−」の現代語訳は上野誠教授、「馬並めて−」は吉村誠教授

 

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