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【暮らし】

<おやじ塾>男の平成30年史(下) 肩の力抜いて気楽に

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 バリバリ働き、遊びも豪快な「モーレツ社員」から、家事にも育児にも積極的な「イクメン」へと変貌を求められた平成のおやじたち。しかし、仕事一筋の生き方から、なかなか抜け出せず、今の時代に生きづらさを感じている中年男性もいる。令和の時代、どう生きていったらよいだろうか−。 (添田隆典)

 東京都足立区の佐久間修一さん(52)は、いわゆる「専業主夫」。妻(43)はグラフィックデザイナーで、佐久間さんが家事と小学一年の長男(6つ)の育児を担う。いわゆる「イクメン」だが、自然とそうなったわけではない。

 以前はシステムエンジニア(SE)として、「月百時間以上残業していた仕事人間」。それが、新婚まもない三十一歳のとき、難病を発症し、退職した。「私が稼ぐから」。妻に励まされ、自宅療養をしながら家事を担うことになった。

 しかし、仕事に出掛けない自分を受け入れられない。毎朝、スーツに身を包んだ。しかし、向かう先は会社ではなく、まずは台所。皿洗いや掃除、洗濯に取り掛かり、人目に付かないよう客足の少ない開店直後にスーパーで買い物した。「『男は仕事』だと思ってきた」。「無職」の自分に負い目を感じた。

 それが変わってきたのは三年目のこと。妻の年収がかつての自分の年収を上回った。「自分は必死に残業して働いて得ていたのに、妻はすいすい追い抜いた。それを見てふっきれました。妻のバックアップに徹した方が家庭がうまく回る」。その後、病状も安定。いまは子育てに励む自分が、「幸せだと思う」。

 タレントでエッセイストの小島慶子さん(46)も、商社マンの父と専業主婦の母の家庭に育ち、「男は働いて稼ぐものだと信じて疑わなかった」。しかし、六年前、夫(53)が突如、仕事を辞めて専業主夫に。夫と子ども二人を一人で養わなければならなくなった。「そこで初めて世のおやじの孤独に気づいた」と言う。

 家では暗黙のうちに「一家の大黒柱」と期待され、社会では肩書や年収で評価される。さらに、家事や育児も求められる。なのに、「男らしくないから」と弱音をはけない。

 小島さんは「肩書や年収で人を判断したり、自分の弱さを認めずに強がったりするのが、セクハラやパワハラにつながってきた」とみる。「つらいときは『つらい』と言葉にできれば、自分も周りも楽になる」

 京都産業大教授で社会学者の伊藤公雄さん(67)は、バブル崩壊後、「仕事だけが生きがい」は、まかり通らない社会になったと言う。しかし、女性のように結婚や出産を機に、それまでとは別の生き方になるということがないため、古い価値観から抜け出せない。そこで、伊藤さんは「仕事以外の場で、人と関係を結ぶことだ」と話す。

 横浜市港北区のメーカー勤務、寅丸雅光さん(39)にとって、毎週末に通っている料理教室がリフレッシュの源。フルタイムで働く妻(38)の負担を軽減しようと、三年前に習い始めたが、いまでは仕事にはないやりがいを感じているという。「職場では部下もいて頼られる立場だけど、料理についてはまだまだ知らないことだらけ。趣味があるから初心に帰れる」と話す。

 伊藤さんは、次の時代に必要なことに「男らしさ」から「人間らしさ」への転換を挙げる。「人間は本来、仕事の顔だけでなく、家庭や地域、趣味の顔がある。仕事の顔だけが肥大化してきた」。だからこそ、仕事や肩書と自分を切り離す時間が大事だという。「妻や子どもと向き合う時間を大切にしたり、趣味の時間を持ったり。そんなふうに男らしさのよろいを脱いでいけば、新時代にふさわしい顔つきにきっとなるはず」とエールを送る。

 

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