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【暮らし】

<転勤を考える>(上)突然の辞令に決断 「家族のため」退職、転職

「家族と一緒に暮らしたい」と単身赴任中に退職した秋鹿良典さん=川崎市で

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 人材育成と組織のマンネリ防止などを目的に、多くの企業で当たり前とされてきた「転勤」。だが、育児や介護、夫婦共働きなどさまざまな事情を抱える社員の増加を受け、辞令一枚で転居を余儀なくされることに、疑問の声も上がり始めた。曲がり角を迎えた転勤について、三回にわたり考える。(上)は、突然の「転勤」に働く人が下した選択とは。 (寺本康弘)

 今は専業主婦として、夫(33)、長男(1つ)とともに水戸市で暮らす女性(32)が、仕事を辞めたのは二年前。転勤を命じられた夫についていくためだ。

 女性は当時、長崎県内のプラント設備開発会社に正社員として勤めて間もなく八年。仕事はプログラミングで、入社後は県外の研修会に参加するなどして技術を磨いた。私生活も充実していた。結婚一年目で妊娠六カ月。製造業の夫は全国転勤の対象だが、結婚間もないこと、自分が妊娠中であることなどから、漠然と「まだ先」と思っていた。

 出産後は仕事に復帰するつもりだった。夫は単身赴任を覚悟し、「したいようにしていい」と言った。でも、迷った。「生まれてすぐに父親と離れ離れでは子どもがかわいそう」と思ったからだ。夫への辞令から一カ月後、退職を決めた。

 公園で楽しそうに遊ぶ夫と長男を見ると、ついてきて良かったと思う。ただ夫の転勤という事情でキャリアを諦めざるを得なかったことには、釈然としない思いが残る。「子どもが生まれて何年かたってからの転勤なら仕事を続けていた」

 働き盛りの年齢で、単身赴任を嫌って転職を選んだ人もいる。団体職員の秋鹿(あいか)良典さん(53)=川崎市=は三年前、二十八年勤めた産業ガスメーカーを辞めた。

 二〇一二年、三回目の転勤で、首都圏の本社から三重県の工場へ。専業主婦の妻、娘二人と四人で引っ越したが、一年後、長女が中学校、次女が小学校に上がるのに合わせ、三人は自宅に戻った。

 二重生活で家計は赤字。社内のポストの兼ね合いなどで本社に戻れる見通しはなかった。悩む中、退職を後押ししたのは「子育てと妻のサポートをしてこそ父親」という思いだ。転勤のない一般社団法人に転職し、収入は三分の二に減った。だが「転勤の不安がなくて気が楽」と笑う。

 一方、企業側にも言い分がある。例えば、都内の大手食品会社の人事担当者は「出張ではなく、そこに住むからこそ、住民の気質や文化が分かる。販売戦略も立てやすくなる」と転勤の意義を強調。「全国には大小の営業拠点があり、どちらも知ることでマネジメント力が養われる」とも話す。

 転勤に関する規則が就業規則などにある場合、社員が命令を断るのは難しい。それを端的に示すのが、一九八六年に出された最高裁の判決だ。家族の事情を理由に、転勤を拒んで懲戒解雇された社員が無効を訴えたものの、敗訴した。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構が従業員三百人以上の企業一万社を対象に実施した二〇一六年の調査では、「正社員のほとんどが転勤の可能性がある」と回答した企業は33・7%。このうち、期間や時期などに関するルールを規定していない企業は72・1%。調査した企業全体では、転勤は「会社主導ですべて決められている」に「近い」と「やや近い」が79・7%に上る。

 ただ、価値観が多様化する中、従来のやり方では離職を選ぶ人が少なくないのは事実。入社希望者も集まりにくい。二十日掲載の次回(中)では、社員一人一人の事情に配慮した転勤制度を探る企業を紹介する。

 

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