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【暮らし】

<モノ運びの陰で>(中)伸び悩む賃金 やむなく「二足のわらじ」

平日はトラック運転手、週末には電気工事士に。マイカーに資材を載せ、工具入れを腰にまけば準備完了

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 六月初めの週末。名古屋市内に住む男性(51)がやってきたのは、市近郊の建設現場だ。小型のマイカーには工具一式が詰め込まれている。「本業はトラック運転手。でも、週末は電気工事士になります」。土、日曜を使い、アルバイトをしているのだ。

 かつてはルール無用の長時間労働が当たり前。大型トラックに、機械部品などを載せて日本中を行き来した。忙しい分、給料は悪くなく、手取りで月約四十万円。妻と息子、知的障害のある娘を養いつつ、ローンでマンションも購入。収支はトントンだった。

 ところが、三年前、男性の働き方に関し、会社に運輸局の指導が入った。未払いだった残業代を取り戻せたのは良かったが、会社側は合法的な新賃金と運行管理を打ち出した。

 確かに、きちんと休めるようにはなった。しかし、厚生労働省の定める「拘束時間は一日十三時間以内」「最大でも十六時間以内」などのルール通り、時間が来れば、どこを走っていようと強制的に「終業」を宣告されることに。運行状況はタコメーターに記録されるので従うほかない。「あと一時間走れば目的地にたどり着けるのに」と歯ぎしりしたことも。家にも戻れず、トラックの中で眠った。

 勤務時間の減少は給与の額に表れた。手取りは十万円以上減って、月二十万円台に。当時、息子は大学生で、授業料だ、教材費だと金がかかった。「何とかせねば」と二年ほど前から始めたのが、電気工事のアルバイトだ。

 こうした例は、男性の会社に限らない。職種に関係なく、一人からでも入れる労働組合の幹部は、ある運転手の車に、コンビニの制服が積んであるのを見たという。

 一九九〇年、物流二法の施行で規制が緩和されると、安値受注による値引き競争が激化。運転手は賃金カットに見舞われた。長距離運行が多く、比較的実入りがいいとされる大型トラックの運転手でも、二〇一七年で見ると、年収は四百五十四万円。全産業平均より三十七万円も安い。中小型トラックの運転手になると、四百万円を何とか超える程度だ。

 だから、労組も単純に、「長時間労働反対」とは言いにくい。「稼ぎが減ってしまうから」だ。労働時間は全産業平均より一、二割長いのに「本音は『もっと働かせろ』です」と苦笑いする。「賃上げなしに、時短は実現できません」

 運輸業界は空前の人手不足。本来、こういう場合、金銭的な待遇は良くなるはずだ。労働問題に詳しい京都大大学院経済学研究科の久本憲夫教授は言う。「規制緩和に続き、二〇〇八年のリーマン・ショックで給与は大きく落ち込んだ。それが戻っていないのです」

 給与はいったん下がるとなかなか元には戻らない。経営者は、また来るかもしれない危機に備えようとする。その結果、運転手は、それだけでは家族を養えない稼業となったのだ。

 政府は今年四月、副業・兼業を本格的に解禁した。長時間労働も複数の会社で割れば、一社当たりの労働時間は合法的になるという下心も見え隠れする。「自分の体は自分で守るしかない。二足のわらじの私も、月に二日は休むようにしています」。男性はそう言って、道具入りのベルトを腰に巻いた。 (三浦耕喜)

 =次回は七月一日

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