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【暮らし】

<モノ運びの陰で>(下)女性、若手が握る未来 人材、業務多様化で活路

夜勤に出発する日當さん。運転台に上ると視界が開ける=愛知県豊田市で

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 愛知県豊田市にある「大橋運輸」(本社・同県瀬戸市)の車庫。夕刻、夜勤の社員が集まってきた。その一人、日當純代(ひあてすみよ)さんは二人の子どもを育てる母親だ。十トントラックに自動車部品を積み、明け方まで県内各地の工場を回る。

 二十歳からの七年間は他社で中型車を運転していた。結婚、出産を理由に仕事を辞めたが、下の娘が高校に入ったのを機に、一昨年十二月から再びハンドルを握っている。

 運輸会社は、体力的に無理の利く若い男性を雇いたがる傾向が強い。女性、しかも小柄な日當さんには有利とは言いがたい。長い労働時間、低い賃金が若い人に敬遠され、運輸業界は高齢化が進む。就業者のうち五割以上が四十〜五十代、しかも男性が圧倒的多数を占める。男手が足りないなら、頼りになるのは女性だ。「トラック運転手はもう『男の仕事』じゃない」と日當さん。「力のいる荷物の積みおろしなどはフォークリフトがやりますから」と笑う。

 総務省によると、トラック運転手に占める女性の割合は、今はまだ2・4%。全産業平均の43・8%、同じように「男の世界」の印象が強い建設業の15・3%に比べても、格段に低い。国土交通省は二〇二〇年までに、女性運転手を現在の二万人から二倍の四万人に増やすことを目指す。

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 日當さんが働く大橋運輸は創業六十五年、従業員約百人の中堅企業だ。「経営のキーワードは『多様性』」と社長の鍋嶋洋行さん(50)は言う。女性の運転手を迎えたのも、さまざまな人材を取り入れたいとの考えからだ。応募用紙には性別欄がなく、性的少数者(LGBT)も志願しやすい。社員には外国人もいる。

 業者が乱立する運輸の世界は二次、三次の下請けが当たり前だ。大手にぶら下がっている限り、他社との値引き競争からは逃れられず、収益は頭打ちだ。社員の給与も上げられない。そこで同社は、運輸一本から、業務の多様化へかじを切った。引っ越し作業を請け負う中で、不用品の買い取りや生前整理、遺品整理も行うように。仕事の幅を広げて経営が安定すれば無理な注文に応じる必要はなくなる。

 地域活動にも積極的だ。社業とは関係のない地元・瀬戸に生息する特別天然記念物「オオサンショウウオ」の保護に取り組むほか、警察と協力して交通安全教室も。こうした活動の積み重ねが「顔の見えない下請け業者」から、「ご指名」で直接仕事を依頼される会社への変身を支えた。

 「地域からの信頼は、働きがいにもつながる」と鍋嶋さん。あとは、やる気になった社員をどう定着させるか。同社では家賃を補助し、大型やフォークリフトなどの免許取得費用も支給。運転手の二割近くを二十代が占めるほど、若者の定着率は高い。

 最近、うれしいニュースがあった。知的障害のある二十三歳の男性社員が準中型免許の試験に合格したのだ。やれる仕事が増えれば自信も深まる。「多様な人材が集まれば、多様な知恵が生まれます」

 旧来のやり方にとらわれていては、働き方は変わらない。女性や障害者、外国人ら運輸業界とは縁が薄かった人材を活用することは、変化を後押しする材料の一つだ。

 時刻は午後六時。日當さんの出発時間だ。高さ約二メートルの運転台にひらりと飛び乗ると、アクセルを踏んで走りだした。 (三浦耕喜)

 

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