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【暮らし】

<ここを居場所に 親に寄り添う発達支援> (中)閉じこもらないで

佐々木さん(中央左)とリトミックで遊びながら集う親子たち。発育に関する相談も個別に受け付ける=名古屋市北区で

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 母親が床に座って伸ばした脚に、ちょこんと座った子どもたち。歌に合わせて体を「ゆらゆら」、母親が脚を開くと、そのまま落ちて尻もち。「ドスーン」という歌詞に、キャッ、キャッと歓声が響いた。

 発達が気になるゼロ〜二歳児とその親が集う、名古屋市北区のサロン「そーるきっず」。区内に住む保健師で、自身も障害のある息子(8つ)を育てる佐々木美華さん(43)が、一月から毎月一回、開催している。

 この日は、発達障害児の療育に詳しいリトミック講師伊藤映理子さん(52)がゲスト。子どもたちは、音楽に合わせてカスタネットやタンバリンをたたいて音を出したり手や体を動かしたりした。発達に遅れがある子の特徴の一つは、自分の体がどこを向き、空間のどこに位置するかを把握しづらいこと。よくぶつかるなどするのも人や物との距離感が分からないから。サロンではバランスボールも使い、転がしたり上に乗せたりして、遊びながら体の感覚を養えるよう働きかけている。伊藤さんは「お母さんとくっつきながらやれば、安心してできる」と話す。

 脳に障害のある二歳十カ月の長男を連れて参加していた愛知県春日井市の母親(30)が、ここを訪れるのは二度目。子育て中の保護者が集う地域のサロンに行ったこともあったが、そこでは遊び場が月齢ごとに分けられていた。発育がゆっくりの長男は、同じ月齢の子が立って歩いている中でハイハイをしたり、工作をしているそばでクレヨンを口に入れていたり。人との接し方が分からなくて乱暴になることもあったため、次第に外に出づらくなった。「息子のことをどう説明すればいいか分からなかったし、周囲の子と比べて私も苦しかった」。でも「ここなら息子も自分のペースで楽しめる。私も心が落ち着いた」と笑顔を見せた。

 佐々木さんも、息子が幼い時は行き場がなかった。保育園や小学校に通い始めても孤立感は続いた。運動会や発表会に行って「障害のある子が頑張ってるよ」といった保護者らの声を聞くたびに傷ついた。だからこそ、サロンにやってくる親の気持ちがよく分かる。

 息子は今も言葉が出づらい。ひらがなを書いた文字盤を指さして気持ちを伝える。もっと小さいころは、手作りのカードを使った。カードは「おなかすいた」「うるさい」といった日常で使う言葉と、それを表現したイラスト入りだ。「誰だって、わが子の気持ちを分かりたい。方法さえ工夫すればできるんです」

 ただ、サロンでは「こうした方がいい」と指導することはない。インターネットや本で療育の成功体験を探しては「同じように」とまねをし、でもほとんどはうまくいかず、疲れ果てた経験があるからだ。発育について話したり個別の相談に乗ったりもするが、自身の体験はそれとなく伝えるだけにとどめる。「ここまでできるように」など目標を設定することはなく、サロンを開けている午前中二時間は出入りも自由だ。

 見ていてよほど心配な子の親には、地域の保健センターなど公的な機関への相談を勧めることもあるが、その時もやんわり。療育を始めるのは早いほどいい。ただ「やっぱりうちの子は遅れているのか」と不安をあおる恐れもあるからだ。

 一番伝えたいのは「閉じこもらずに、出てきてほしい」ということ。「成長はその子のペースでいいんだよ、と。心配で張り詰めているお母さんの気持ちを和らげたい」 (花井康子)

佐々木さんが手作りしたカード。「息子の気持ちが知りたい」と必死だった=佐々木さん提供

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