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【暮らし】

<ここを居場所に 親に寄り添う発達支援> (下)離乳食もゆっくりと 

家庭訪問をして離乳食の指導をする佐々木さん(左)。「発達の遅れは今のところないが、きちんと勉強してみたかった」と母親は話す=名古屋市瑞穂区で

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 「食べ物や食器に興味を示したときが、離乳食の始めどき」。名古屋市北区の保健師で、障害のある息子(8つ)を育てる佐々木美華さん(43)が主宰する離乳食座談会の一コマだ。発達の気になるゼロ〜二歳児と、その親の支援を掲げる事業「Saule(ソール)」の一つとして、今月から不定期で開く。

 佐々木さんが強調するのは「母子手帳などにある月齢に沿った開始時期や進め方は目安」ということ。「その通りに食べないからと焦らないで」と柔らかな口調で話し掛ける。

 自治体などが主催する通常の離乳食講座は、その月齢の子どもに必要な栄養や量、作り方の情報が中心。しかし、発達がゆっくりな子どもが離乳食への移行をスムーズに行うには、別のアプローチが必要だ。

 まずは、定型発達の子に比べて弱い筋力や体幹を鍛えること。参加者を前に、「役立つのが腹ばいやハイハイ」と佐々木さん。前に進む際、首が上がって首周りの筋肉が鍛えられるため、そしゃくに必要なあごや舌が動きやすくなる。食べる時の姿勢も大事。体が安定するよう、座った時に足がぶらぶらしない椅子に座らせることを勧める。

 もう一つ、発達がゆっくりな子どもの特徴が、自分の口にどれだけの量が入るのかが分からない点だ。たくさん盛って出すと限度を超えてほおばることも。佐々木さんは一口分ずつ皿に盛るよう助言。「目に訴えると、子どもも適切な量がつかみやすくなります」

 感覚が鋭すぎて、口に当たるスプーンの感じが嫌だからと食べない子もいる。「木製やプラスチック製、ステンレス製などいろいろな素材の製品を試して」。母親にスプーンを使わせ、どの角度で口に入れればのみ込みやすいかを自分の体で体験させるなどもした。

 七月上旬にあった講座に参加した親子は二組。その一人、同区の母親(37)は今にも涙がこぼれそう。「生後十カ月の一人息子が離乳食をほとんど食べない。体も小さい」と打ち明けた。果汁を搾ったり、バナナをすりつぶしたり、好きそうなものを探すが受け付けない。食べ物を渡しても放り投げてしまう。

 佐々木さんが母親の背中や肩をさすりながら「この子にはこの子の育ち方がありますよ」と語り掛けると、少しずつ落ち着いて「きょう聞いたことをやってみます」と話した。一人で悩み続けていた母親は、ほんの少し心が軽くなった様子で帰っていった。

 佐々木さんは自らの体験も踏まえ、「発達に遅れのある子や障害児の場合、早い段階で将来に絶望してしまうことも多い」と話す。「はえば立て 立てば歩めの親心」というように、子どもの成長は何よりの楽しみ。だが、それが焦りや苦しみに結びつく親がいることは忘れがちだ。

 発達障害に詳しい名古屋市立大大学院医学研究科新生児・小児医学分野教授の斎藤伸治さん(58)は「発達が遅くても、その子なりの成長を周囲が見守ることが大事」と指摘。そうやって育つと「自分の障害を受け入れ、前向きに生きられる子になる」。そのためには「困っている親を孤立させず、気になる場合は公的な機関と連携することが必要」と話す。発達の遅れが気になる、ならないにかかわらず、求められれば個別に家を訪ねての離乳食相談も受け付ける佐々木さん。「今後は託児所などとも連携して輪を広げたい」と言う。

 きょうも、やってきた子どもと親を温かい笑顔で受け止める。「よく来たねえ」

 (花井康子)

 

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