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【暮らし】

<研究者目指したけれど…大学非常勤講師らの嘆き> (下)4校掛け持ち、年収200万弱

大学で非常勤講師を掛け持ちして生計を立てている天池洋介さん。年収は200万円に届かず「生活が苦しい」=岐阜市の岐阜大で

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 きょうはこの学校、明日はあの学校…。岐阜大や私立大、短大、専門学校の計四校で非常勤講師を務める天池洋介さん(39)の一週間は忙しい。給与は講義をいくつ受け持つかで決まる。対価は一コマ九十分当たり約一万円。本年度は前期は週六コマ、後期は五コマを担当するが、困るのは講義のない春休みや夏休みだ。収入がなくなるため、年収は二百万円に届かない。

 自宅での授業準備やリポートの添削、テスト作りなどへの手当はない。専任教員になるには、論文を発表するなど研究業績を残していくことが重要だが、本の購入や学会に出るための交通費は自腹。もちろん、健康保険や厚生年金などの社会保険はない。生活は苦しい。「一日一食でしのいだり、見かねた知人が送ってくれた米を食べたり」。白菜を丸ごと買って漬物を作っては、おかずにする。「コンビニ弁当なんて高くて手が出ない」と話す。

 次年度の契約について大学側から打診があるのは、毎年秋ごろだ。「次も仕事をもらえるかどうか、その時期はいつも不安」。しっかり契約を交わすのは新学期の講義が始まる直前、四月に入ってからだ。

 大学を卒業したのはバブル崩壊後の景気低迷期に当たる二〇〇二年。一度は企業に就職したが、勤務は一日十二時間、昼食を取れないほど忙しく、体調を崩して退職した。転職しようにも就職氷河期で、あるのは非正規の仕事ばかり。福祉政策や就労支援を学んで社会を変えたいと心機一転、〇八年に名古屋大大学院に入学。奨学金四百五十万円を借りて博士課程まで進んだ。

 非常勤として働く今、岐阜大では労働組合に入れたが、私立大では「非常勤講師の加入は規約で認められない」として加入できなかった。「非常勤講師の立場は、すごく弱い」。結婚もしたいけれど「こんな不安定な立場では無理」と嘆く。

 少子化に伴い、大学の専任教員の採用はどんどん減っているのに、奪い合う人の数は増えている。背景には、欧米並みの研究レベルを確保しようと、国が一九九〇年代、大学院重点化策を打ち出し、大学院生の数が急増したことがある。

 文部科学省によると、大学院博士課程の修了者は重点化策以前の八九年度は五千五百七十六人。ところが、昨年度は一万五千六百五十八人と三倍近くに増加。それと比例して増えたのが、所属する大学を持たず、非常勤講師などを掛け持ちしながら働く人の数だ。八九年度は一万五千六百八十九人だったが、二〇一六年度は九万三千百四十五人と六倍に増えた。

 今はフリーの文筆業で生計を立てる舞田敏彦さん(43)=神奈川県横須賀市=も、非常勤講師として働き続けた一人。〇五年から五校の私立大で非常勤講師を務めてきたが、四十歳になった三年前の秋、雇い止めにあった。「若い人に職を譲ってほしい」と学科長らに言われたという。

 教育学の博士号を持ち、これまで四十校以上の正規教員の職に応募してきた。学生減少で大学の経営は厳しさを増す。「非常勤講師は使い捨てにされやすい。人件費を抑えるための調整弁になっている」と話す。

 就職先の見込みもないまま、国の重点化策で大学院にいざなわれた若者たち。社会に広がる正規と非正規の処遇の違いは、学問の世界も同じだ。今後ますます高齢化する彼らをどう生かすか、本気で考えるべき時が来ている。

 (細川暁子)

 

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