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【暮らし】

無理な「食トレ」悪影響 大食を強制するスポーツ指導

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 スポーツ指導の一環として、白米を無理に食べさせる「食トレ」が問題になっている。七月には兵庫県尼崎市の市立高野球部で行きすぎた食トレが発覚した。強制的に物を食べさせることは消化不良を招くだけでなく、人との食事が怖くなる危険もあるとして、専門家らは警鐘を鳴らす。 (細川暁子)

 「食トレ」は食事トレーニングの略。二十年ほど前から、主に野球の指導者の間で広がった「食事もトレーニングの一環」という考えがもとになっている。

 食トレをはじめ不適切な指導があったとして、教員らが処分を受けたのは兵庫県の市立尼崎高野球部。二度の甲子園出場経験を持つ強豪だ。毎日一人七合の白米を持参させ、食べ終えるまで帰さなかった。吐いてしまう部員もいたが、市教育委員会によると、教員らは「子どもたちの体を強くしたかった」などと話したという。

 「高校生だった約十年前の食トレがきっかけで、人前で食べるのが苦痛になった」と話すのは、自ら設立した「日本会食恐怖症克服支援協会」(東京都)で代表理事を務める山口健太さんだ。会食恐怖症は、精神疾患の一つ。人とご飯を食べようとすると、吐き気やめまいなどに襲われる。山口さんの場合、年三回あった野球部の合宿の際、朝二合、昼二合、夜三合と計七合の白米を毎日食べさせられたことで発症。「食べられないと、みんなの前で監督に怒鳴られるんです」

 当時は身長一六三センチ、体重は五五キロ。所属していた岩手県内の高校の野球部では、六〇キロ以上ないと打撃練習に参加できなかった。合宿中は「食べきれないかも」と怖くなり、食事前に吐くこともあったという。

 この病気に詳しい、たかはしクリニック心療内科(京都市)の高橋進院長(68)によると、会食恐怖症は「全部食べなきゃ」といった極度の緊張が原因だ。緊張によって消化に影響する副交感神経が鈍ると、のどの筋肉が動かしにくくなり、腸の働きも悪くなるという。「消化機能を酷使させ、人格まで否定する不適切な食トレは、虐待といわれても仕方ない」と断じる。

 治療は抗うつ薬や抗不安薬の服用と、恐怖の対象に徐々に慣れさせる認知行動療法が一般的だ。山口さんも人と食事をする経験を重ね、数年かけて克服。食事の際、会話や料理の味、においなどに注意を向けることが有効だった。

 協会設立後の二年間で相談を寄せたのは約二千人。62・5%が学校や家庭などでの完食指導を発症のきっかけに挙げた。山口さんは経験を生かし、一人一人に「食べられる量でいい」「第三者に相談するのも手」などとアドバイス。全国で開く講演会で完食指導をやめるよう訴えている。「食べられる量はそれぞれ違うのに、同じ量を食べさせるのは非科学的だ」

◆大切なのはバランス

 スポーツ選手らを指導する管理栄養士の佐藤樹里さん(29)=東京都=によると、白米は体のエネルギー源である糖質が多い。加えて脂質が少ないため、消化がしやすく、効率的にエネルギーを補給できる。ただ、糖質をうまくエネルギーに変えるには、豚肉などに多く含まれるビタミンB1が必須。「白米さえ食べれば体が大きくなる」というのは間違いだ。

 「運動量の多い十代に必要なのは、筋肉や骨を強くするタンパク質」。白米と一緒にサケやゆで卵などを取るよう助言する。バランス良く栄養を取るには、米はおにぎりにするといい。お薦めの具は、体の調子を整えるビタミンやミネラルを多く含む小松菜やホウレンソウ、骨を強くするカルシウムが豊富なサクラエビを一緒に炒めたもの。「白米だけを大量に食べると、かえって食欲を失い疲れやすくなる」と指摘する。

 

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