東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 8月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<食卓ものがたり>脂がのった「幻の味」 倉沢のアジ(静岡市清水区)

7月下旬に取れた大型の「倉沢のアジ」。最近はめったに取れない大きさという=静岡市清水区の由比港で

写真

 梅雨明け直後の七月末、午前六時。由比港(静岡市清水区)に、第11光洋丸(二〇トン)が戻ってきた。接岸してすぐ、沖合の定置網にかかったタイやカンパチなどを水揚げする。「全部で五百キロくらい。夏枯れかな」。副漁労長の望月保志さん(44)は少し浮かない顔。二〇センチ前後と小ぶりだが「倉沢のアジ」が数十匹混じっていた。

 アジは近海を泳ぐ回遊魚の他に、沿岸の湾や瀬に定着する「根付き」がある。地名を冠し、駿河湾に根付く「倉沢のアジ」は由比ならではの味。餌はサクラエビやハダカイワシ。背から尾にかけて金色なのも特徴で、大きいものだと十年くらいかけて一キロ近くにまで成長する。「脂ののった餌を食べ、運動不足。だからぽっちゃり」と望月さん。近年は不漁で貴重な食材となった由比名物・サクラエビが餌というだけでおいしそうだ。

 「仕事は趣味の延長。市場が休みでも海に出るくらい」と笑う望月さん。漁師になった約二十年前は、船に積みきれないくらい取れたと振り返る。三〜十月まで定置網にかかるが、最盛期は「桜の花からミカンの花が咲くころまで」。ただ近年は海水温の上昇や餌のサクラエビの減少で、一キロ弱の大型のアジはめったに取れなくなり、「幻の味」ともいわれる。

 江戸時代にさかのぼる伝統の定置網。そこで取れるアジを知ってもらおうと、望月さんは自らロゴマークを考案。港のまつりでフライなどにして出すなど、知名度向上に力を入れる。

 地元の人は、新鮮なうちに刺し身で食べるのが一般的。サクラエビ料理で人気漫画「美味しんぼ」に登場した同区由比東倉沢の料理店「くらさわや」三代目主人、渡辺一正さん(57)にさばいてもらった。一口目でプリプリとした歯応えに驚き、口に運ぶたびに少し甘みも感じた。脂ののりがいいのにすっきりとしている。「弾力は取れたての特権ですが、一晩冷蔵庫に置くと脂がなじんでいい味になるんです」

 子どものころは、たたいたアジをご飯に載せ、しょうゆとお湯をかけて食べてきたという渡辺さん。「サクラエビよりおいしい」と笑った。

 文・写真 五十住和樹

◆味わう

写真

 渡辺一正さんによると、由比地区にある鮮魚を扱う各料理店は、その日の朝に取れた小型も含めた「倉沢のアジ」を刺し身=写真=や、たたきなどにして提供している。

 「江戸前」の向こうを張って、静岡市は沿岸で取れた海の幸を「しずまえ」鮮魚と名付けてアピール。倉沢のアジもその一つだ。9月15日午前9時から開かれる「由比港浜の市」では、その日の朝、定置網にかかった魚などを販売する。サクラエビのかき揚げなどの飲食コーナーも。問い合わせは由比港漁業協同組合=電054(376)0001。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報