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【暮らし】

<Life around the World>税 複雑すぎて困るよ

 10月からの消費税増税。飲食料品の税率を8%に据え置く「軽減税率」をはじめ、複雑な変更に戸惑う人は多い。社会に不可欠な税。負担する側にすればシンプルなものが望ましい。ただ世界にも、国民が首をかしげる税があるようだ。

◆米国 そのままで?挟む?

ニューヨーク定番のベーグル。無加工(左)のものは非課税だが、鶏肉や野菜を挟んだもの(右)には売上税が課される=ニューヨーク市で 

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 街角のおしゃれなカフェから郊外の食料品店まで、モチモチした食感のベーグルは米国のどこでも手に入る日常食だ。たくさんの人気店がしのぎを削る東部ニューヨーク州では、買うときに売上税が課されるベーグルと非課税のベーグルがある。これは地元市民にも意外と知られていない。

 州税務当局によると、食料品店が販売する食料は一般に売上税が免除される。生鮮食品から冷凍食品、パン、クッキー、ケーキまで大半の商品が当てはまる。一方で例外も少なくない。その一つがサンドイッチだ。ベーグルの課税の有無も、サンドイッチと見なされるかどうかによるという。

 「販売時に焼いたり、クリームチーズを塗ったり、具材を挟んだりすると課税されます」。州職員のジェームズ・ガズエールさん(31)が説明する。「ベーグルを切ってもらうと課される奇妙な州税」(USAトゥデー)と報じられたこともあるが、誤解のようだ。「ベーグルそのものや切っただけでは課税されません」。売上税の税率は州の税率4%に、地域ごとの税率を足したもの。ニューヨーク市は8・875%が課される。

 ニューヨーク市マンハッタンのサンドイッチ店。近くで働く女性会社員ジーン・モランさん(40)は、卵とチーズ入りベーグルを朝食用に買うのがお決まりというが、記者の取材で課税対象と知り、「え、本当に?」。

 「なぜ私のベーグルに課税するの? 生きるために欠かせない食料よ。ばかげている。お酒でもないのに」とモランさん。別の女性客(28)にも妥当性を尋ねたが、やはり不満げだった。「道理なんてない。単に大衆からお金を取るためよ」

 ちなみにサンドイッチ以外では、炭酸飲料や加熱して販売される食品、ペットフードも免税の例外だ。

 (ニューヨーク・赤川肇、写真も)

二つのベーグル商品の 領収書。無加工のベーグル(左)は非課税だが、鶏肉や野菜を挟んでもらうと77セントの売上税が課税される

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◆フランス 悩むショコラティエ 凝れば贅沢品

「ショコラ(チョコレート)への課税制度が複雑すぎる」と話すジュリアン・ドゥシュノさん=パリ近郊で

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 ショコラティエ(チョコレート職人)が腕を競う、華やかなチョコレートの世界。フランス人一人当たりの年間消費量は七・三キロで、日本人の三倍以上だ。友人宅の食事会で手土産にしたり、カフェでつまんだり、生活に根差している。

 職人の頭痛の種が、複雑な付加価値税(VAT、消費税)の税率だ。一般家庭も製菓用に使うブラックチョコは5・5%。ナッツや穀類を混ぜ込んだチョコバーも同じだが、カカオの割合が50%以上になると20%に跳ね上がる。ホワイトチョコやミルクチョコは原則20%だが、製菓用ならば5・5%。ボンボンショコラ(一口サイズのチョコ)に至っては、大きさで税率が変わる。手がかかると贅沢(ぜいたく)品扱いになるようだ。

 パリ近郊バンセンヌに店を構えるジュリアン・ドゥシュノさん(29)は、基本的にブラックチョコを使うため税率は大半が5・5%だが、中には20%のものも。「本当に複雑。会計士に任せています」と苦笑する。レジを担当するシンディ・カスティレオさん(26)も「新商品ができた時は確認が欠かせない」と打ち明けた。

 欧州にチョコがもたらされたのは、スペインの支援でコロンブスがアメリカ大陸へ航海した十六世紀。フランスには十七世紀に、ルイ十三世と結婚したスペイン王女が持ち込んだとされる。以来、上流社会で人気を博すようになった。

 第二次世界大戦後の一九五四年の税制改革を経て一般的な食品は税率が5・5%になったが、海外からカカオ豆を輸入するチョコは高税率にとどまった。

 今や一部のチョコは5・5%になったが、税率20%のものでさえ必ずしも贅沢品ではなくなった。「社会習慣や文化は変わってきた。税制ももっと分かりやすくシンプルにしてほしい」とドゥシュノさんは言う。

 (パリ・竹田佳彦、写真も)

レシートの付加価値税の税率は、5・5%がボンボンショコラ、20%は板チョコ(Tablette)

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◆エジプト モスクをつくる理由

賃貸用マンションの一部にあるモスク=カイロで

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 一日に五回の礼拝が義務のイスラム教。エジプトの首都カイロの街中を歩いていると、賃貸マンションの地下や屋上に「ザウィヤ」と呼ばれる小規模のモスク(礼拝所)を見掛ける。

 「イスラム教では、モスクを建設したら徳を積める。三十五年前に死んだ父の遺言で改装した」。金曜礼拝時には近所の住民ら百人以上が集まるモスクを持つフセイン・ファラジさん(72)が教えてくれた。ラマダン(断食月)中に食事を無償提供するなど信心深い。

 ただ、必ずしもファラジさんのように信仰心ばかりとは限らない。エジプト宗教庁は今年二月、私費でのザウィヤ建設を禁じる通告を出した。背景にあるのは、固定資産税を免れようとする悪知恵。モスクという神聖さとは対極にある、人間くささだ。

 そもそもモスクなどの宗教施設は固定資産税の対象外。不動産税制が改正された二〇一七年まで、一部にモスクを持つ建物は、全体への課税が免除された。電気代や水道代といった公共料金も地元当局が肩代わりする仕組み。そのため、ビル所有者が設けるモスクが増えすぎてしまったのだ。

 モスクを巡る手口は別の形でも。地元不動産業者によると、農地を住宅地に違法転用する際に、まずモスクを建設。その後、なし崩しで住宅建設を拡大する。「モスクがあれば、当局は取り壊しをためらうから」という。

 税制改正を受け、固定資産税は建物の部屋ごとに課税される仕組みに。脱法行為は通用しなくなった。シシ大統領は八月下旬の演説で「神は私費でモスクを建てるのを認めている。しかし、あくまでも国に認められた場所だ」と発言。その二日後、道路建設の計画地上にあったモスクが取り壊された。(カイロ・奥田哲平、写真も)

屋上にモスクを持つ建設中のビル。関係者は「賃貸アパートではなく、全体がモスク」と言い張った=カイロ近郊で

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 ◇ 

 「世界の暮らし」は今回で終わります。

 

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