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【暮らし】

<男性不妊 僕がパパになるまで>(2)葛藤 「不都合な現実」怖くて

妻の千明さん(左)と長女莉子ちゃん(中)をあやす川田篤志記者=東京都で

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 不妊期間が三年を過ぎようとしていた二〇一八年五月、私(38)は妻(33)と東京都内の産婦人科を受診。検査の結果、男性不妊症を引き起こす精索静脈瘤(じょうみゃくりゅう)と診断された。

 この病気は、精子をつくる精巣(睾丸(こうがん))から心臓へ向かう血流が逆流、滞留して精巣を包む陰のうにこぶができる。血流の悪化により、酸化物質が増えたり、精巣内の温度が上昇したりするなどして精子の質が低下すると考えられている。

 痛みはほぼない。睾丸に熱を感じて気付く人もいるというが、私は診断されるまで自覚症状はなかった。

 医師には手術を勧められた。精巣が萎縮するリスクも「極めてまれにある」ものの、五〜七割の患者が術後半年までに精子の質が改善するという。ただ完治の確約はなく、診断直後でショックが大きく、即答はできなかった。

 帰宅後、不安になってインターネットで調べた。男性不妊症に詳しい東邦大医療センター大森病院リプロダクションセンターのホームページによると、精索静脈瘤は思春期以降にできることが多く、一般男性の約15%が罹患(りかん)し、男性不妊患者の40%に認められる。珍しい病気ではないんだなと思うと少しホッとした。

 だが、しばらくは不安定な感情が続いた。「男性としてダメだ」と烙印(らくいん)を押されたようで、ふがいない自分が嫌になった。妻に対しても申し訳ない気持ちが大きくなった。「自分のせいで妻は三年もふいにしたのか」と、不妊検査をすぐ受けなかった自分を責めた。

 出産後に聞いたが、不妊期間が長く続き、妻の精神的な負担は大きかったという。「不妊症の48%は男性に原因がある」(世界保健機関)が、女性に不妊原因があるとの世間の先入観は根強い。別の報道機関の記者で、夜遅くまで働くこともよくある妻は、子どもがほしいなら酒量や仕事量を減らすように周囲に言われ、「何で女性ばかり我慢しないといけないの」と傷ついた。

 子づくりを始めてから不妊検査を受けるまでになぜ三年もかかったのか。振り返ると二つの要因があった。

 一つは「自分は大丈夫」という過信だ。結婚する二年前の三十二歳の時、興味本位で精液検査を受けた。精子濃度など主要項目はいずれも正常値でお墨付きを得たと思っていた。加齢で精子の質が悪くなったり、病気を発症したりするという発想が欠けていた。

 最大の要因は「不都合な現実」から逃げていたことにある。二人で酒を飲んだり、旅行したりして夫婦関係は良かった。不妊を疑うことで関係性が崩れ、検査で子どもができないと判明したらと思うと、怖くて言い出せなかった。

 診断から一カ月後、医療が発達していなかったら手術を受けるチャンスさえなかったと思い直し、診断を受けた産婦人科の紹介で、精索静脈瘤の手術実績が豊富な「恵比寿つじクリニック」(渋谷区)で手術を受けると決めた。 (川田篤志)

 =次回は十二日掲載

 

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