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【暮らし】

点訳、音訳 ボランティア頼り 読書のバリアフリー化 出版社に協力求める声

音訳図書の貸し出し作業に取り組む大塚強さん=名古屋市の鶴舞中央図書館で

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 六月に成立した「読書バリアフリー法」を受け、視覚障害者らが読書をしやすい環境づくりが本格化する。柱の一つが、図書館での点訳、音訳図書の充実だが、現在は翻訳の多くをボランティアが支えており、利用できる本や図書館はまだ少ない。翻訳を少しでも容易にするため、当事者からは出版社に文字データの積極的な提供などの協力を求める声が上がる。 (植木創太)

 小説や歴史物、ノンフィクション、絵本…。点字に翻訳された本が書架にずらりと並ぶ。隣の書架にあるのは、本を音読してテープやCDなどに録音した音訳図書だ。

 名古屋市立鶴舞中央図書館の一階にある「点字文庫」。一九二九(昭和四)年に開設され、蔵書は点字が約六千、音訳が約一万タイトルに上る。有数の蔵書を求め、市内だけでなく、全国から貸し出しの依頼が届く。

 「利用者に応えられるのは翻訳ボランティアのおかげ。感謝しかない」。そう話すのは全盲の図書館司書、大塚強さん(63)。三十五年前に同市初の点字による採用試験に合格して以来、文庫の運営を支えてきた。

 大塚さんによると、点字や音訳の図書は主に、技能を習得したボランティアが作成。利用者から要望のあった作品や人気本などを選び、十団体の約百五十人が取り組む。

 大塚さんも、図書館に支えられた一人だ。生まれつき強度の弱視で、大阪市立盲学校高等部在籍中に全盲に。元々、本が好きだったが、視力を失って以降、言葉から世界を想像できる読書にのめり込んだ。

 ただ、一番の問題は点字や音訳図書の少なさ。愛知県の大学へ進み、司書を目指した際も参考書や専門書にはほとんど点字がなく、近くの図書館で音読ボランティアを頼んだり、点訳をお願いしていたという。

 司書になって以降は、「視覚障害者が自由に本を楽しめる環境を支えたい」と、ボランティアの養成講座の開催などに尽力。来年の退職を前に読書バリアフリー法ができ、「大きな一歩」と語る。

 同法は視覚障害者や、文字の読み書きに困難のある発達障害者、身体障害者を含め、だれもが読書を楽しめる環境整備を国や自治体に義務づけた。十九日には国や出版業界、図書館関係者を交え、対策を話し合う初の協議会が開かれるが、点字図書などをめぐる現状は厳しい。

 国立国会図書館などによると、同館が一七年に全国の図書館に行った調査(回答率約83%)では点字や音訳、文字の大きな大活字本など、目の不自由な人向けの書籍や資料は計約百七十万点。国会図書館に所蔵されている出版物全四千四百万点の一割にも満たない。

 点字図書のある図書館は六割ほど。蔵書のある施設同士で連携し、融通し合う仕組みもあるが、参加している図書館や団体は三百余りにとどまる。

 理由の一つが、点訳や音訳に時間がかかること。点訳技術の普及に取り組む社会福祉法人「名古屋ライトハウス」の名古屋盲人情報文化センターによると、点訳は全て平仮名で一文字ずつ打ち込んでいく。音訳も、聞いた人が先入観を持たないように音読するなど特殊な技術が必要で、習得した人が二百ページほどの文庫本の小説一冊を点訳するのに五カ月、専門書だと一年以上かかるときも。そのため、本が出版されても、読める時期は大幅に遅れる。

 本の文章が出版社から文字データで提供されれば、点字ソフトや印刷機を使い、より早く点訳できるほか、読み上げソフトで楽しむこともできる。だが、同センターの所長で、点字を教える点字技能師の岩間康治さん(48)によると、応じる出版社はごくわずか。同センターでは翻訳を要請されるたびに出版社にデータ提供を依頼しているが、大半が「複製や改ざんの危険がある」と断られるという。

 岩間さんは「だれもが読書を楽しめるよう、出版社も協力しやすい環境や仕組みが法律制定を機に、整っていってほしい」と話す。

 

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