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【暮らし】

口内に表れる摂食障害 歯科医の理解が大事

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 心理的要因で拒食や過食などから抜け出せなくなる摂食障害の当事者は、歯の健康を損なっていることが少なくない。嘔吐(おうと)を繰り返すことで、口の中に広がった胃酸が歯の表面を溶かしたり、甘い物などを長時間食べ続けて虫歯になったりするためだ。歯科医師が摂食障害の患者を診察する場合、特有の背景を踏まえた対応が欠かせない。ただ障害への理解は広まっておらず、歯の状態を悪化させる患者も少なくない。 (中村真暁)

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 「三十代で入れ歯なんて、年寄りみたい。自分が惨めで…」。摂食障害がある千葉県の女性(34)は数年前に上の歯がほぼなくなってしまった。今も鏡で見るたびに落ち込む。入れ歯も使うが、スナック菓子の硬さだと食べにくく、違和感もあるため、一人でいるとほとんどつけない。そのため「人に偶然会ってしまうと恥ずかしい」。外出時はマスクが手放せない。

 摂食障害を発症したのは十七歳のころ。高校の陸上部で減量を求められ、やせたい気持ちもあって始めたダイエットがきっかけだった。極端に食事制限する一方、気づくと菓子やパンを一気に食べては吐く、過食嘔吐を繰り返した。

 十九歳になると、体重は高校時代より二十キロ少ない三五キロまで減少。同じ頃歯の状態も悪化。磨いても虫歯ができ、ついには歯が欠けだした。

 歯科医師から「甘い物を制限して」と注意されたのに、暴飲暴食がとまらない。応えられないことに後ろめたさを感じ、過食嘔吐のせいとは言い出せなかった。

 歯科医師は「前代未聞」「この歯は終わり」と突き放した。歯科矯正もしていたが、虫歯になりやすい矯正器具は着けない方が良かったのではと、後悔もしてしまう。「歯科医師が障害に気づき適切に対応したら、ここまで歯を悪化させずに済んだかもしれない」

 摂食障害と歯の関係を研究している日本歯科大付属病院准教授で、歯科医師の大津光寛さん=写真=によると、摂食障害の人が虫歯になったり、歯が溶けたりするのは、食べたものを吐き、胃酸や嘔吐物が充満して口内が長時間酸性となることが一因という。毎日、朝食・夕食で大量のご飯やおかずを三時間かけて食べる、といった不規則な食習慣も影響しているという。

 患者は障害を知られたくないと思っていることが多い。「歯科医師は前歯の裏側が溶けて薄くなるといった特徴に気づいたり、食習慣を聞き取ったりして、摂食障害の可能性に気づくことが重要」と大津さん。例えば、嘔吐直後の歯磨きは胃酸で軟らかくなった歯の表面を削り取る可能性があるので避けるなど、適切な助言をすることも患者の歯を守ることにつながる。

 しかし、歯科医師に摂食障害への正しい知識が浸透しているとは言えない。大津さんが所属する同病院心療歯科診療センターを受診した二十三人に聞くと、全員が歯科通院を自主的にやめたことがあり、七割が過去の歯科医療に不信感をもっていた。摂食障害と告げたら「吐かないようにして」「ダイエットしたいなら野菜を食べて」など不適切な指導をされた▽歯ぎしりが原因とされてマウスピースを作られた▽「もう来ないで」と受診を拒否された−などの声も寄せられた。

 大津さんは「摂食障害の症状を改善しなければ、歯も十分に治せない。でも歯だけは治したいと歯科に通う患者もいる。歯科医師が正しい知識を持ち、障害そのものの治療につなぐ役割を果たすことが求められている」と指摘する。

 

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