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【暮らし】

弾む語感 声に出して 児童文学作家・角野栄子さん

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 児童文学作家角野栄子さん(84)の代表作で、世代を超え読み継がれる「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけシリーズ」(ポプラ社)が、刊行四十年を迎えた。子どものおばけが繰り広げる奇想天外な物語で、最新巻で四十二作目。その原点は幼いわが子の想像力から出た言葉だった。子どもの読解力低下が指摘される中、小学校低学年でも読める「幼年童話」の草分けで、多くの子どもたちを読書の楽しさに誘ってきた角野さんに作品の魅力を聞いた。 (聞き手・稲熊美樹)

小さなおばけシリーズ(ポプラ社提供)

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 −タイトルの由来や、作品が生まれた経緯は。

 娘が三歳くらいのときにしていた「お話」が面白くて、書きたいと思ったの。「あっちにいってね、こっちにいってね、そっちにいってね。踏切を渡ったところに、カエルさんのおうちがあって」と。娘の創作で、踏切は、娘にとって現実とファンタジーの境界だったのかもしれない。「あっち」に行くと、カエルの色がお風呂ではタイルの白色に、次はお布団のピンク色にと変わるのね。

 −第一作の「スパゲッティがたべたいよう」をはじめ、シリーズではハンバーグ、カレーライスと、おばけが作る、ちょっと変わっているけれど、食べてみたくなる料理が登場する。

 私は食いしん坊。スパゲティ作りはこのお話を書く二十年くらい前にブラジルで二年間暮らした時に教えてもらったの。日本で娘のお友達に作ったら「おばちゃん、スパゲティ屋さんになった方がいい」と。あとは子どもが好きな食べ物。リアリティーがあるからファンタジーも生きてくる。

 −四十年間続く理由は。

 キャラクターが魅力的でしょう。「アッチ」はおいしいものが大好きな子どものコックのおばけ。ひとりぼっちで、寂しさもあるけれど、料理を通じてさまざまなキャラクターと出会い、世界を広げていく。

 私は五歳のときに母を病気で亡くした。その後、父が語ってくれたさまざまな物語は不安や悲しみを抱えた私の心にしみ入っていった。そして、母がいってしまった世界を想像することで、見えない世界と親しんでいった。それが、アッチたちおばけの世界とつながっているのかもしれない。

 −「トマト まとまと」「コムギ むきむき」など、擬音語や擬態語などもたくさん出てくる。

 誰も使っていない言葉で魅力的に伝えたい。カレーライスが辛いことは「ピカタ ピカタ」。面白く、おいしそうに、作ってみたいと思えるように。そして本は弾むような気持ちで、楽しく読んでほしい。声を出して。私は書いたら声に出して読み、直してというのを何度も繰り返すの。

 −幼年童話の魅力は。

 お話が短いのね。子どもが飽きちゃうから、説明や修飾語を入れられない。最初から最後まで骨太の物語で、起伏があり、どうなるんだろうってハラハラする。面白い主人公が動き回る。これに尽きる。

 −子どもの読書時間が減っている。

 一人で一冊、最後まで読み切る体験がとっても大事だと思うの。それが次の「読みたい」気持ちにつながる。だから、このシリーズはライフワークとして書き続けていきたい。お話が思い浮かばなくて苦しむこともある。でもね、一生懸命考える。小さな読者に、驚いてもらいたいから。

<かどの・えいこ> 1935年、東京都生まれ。早稲田大卒業後、出版社に勤務。ブラジルでの生活を書いた「ルイジンニョ少年」で70年にデビュー。小さなおばけシリーズは累計400万部で、最新巻「おばけのアッチおもっちでおめでとう」が3日に発売された。映画化された「魔女の宅急便」も代表作。児童文学のノーベル賞と言われる国際アンデルセン賞を昨年受賞した。

 

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