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【暮らし】

<家族のこと話そう>ホームズ浸りの両親 漫画家・作家 小林エリカさん

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 父(作家、精神科医の故小林司さん)と母(作家の東山あかねさん)は熱狂的なシャーロック・ホームズ愛好家。実家は東京・練馬ですが、三人の姉たちと家族六人、気持ちは(作中でホームズが住んでいた)ロンドン・ベイカー街暮らしでした(笑)。

 ホームズの知識を教え込まれ、私の七五三の衣装もホームズが着ているようなインバネスコート。フィクションの世界を生きている両親は、それ以外に興味がなくて、家の中はぐちゃぐちゃ。でも、それを私は嫌だと思ったことはなくて、楽しく本の話をしたりしてハッピーでした。

 父は十一代続く医者の家系でしたが、四十代半ばで医者をやめ、ホームズ関連の翻訳や執筆の仕事に専念するようになりました。家で仕事をしていていつも近くにいた父。ウイットに富んで大好きでした。

 家族が多かったので一人になりたいときには、本が山積みになった部屋に潜り込んでいました。十歳の時、そこで見つけたのが「アンネの日記」。十三歳のアンネ・フランクが書いた文章に夢中になり、作家になりたいと思うきっかけになりました。

 十年前、父が八十歳になるころ、実家で今度は父の若いころの「日記」を見つけました。終戦直前から約一年間の日記。十代の少年だった父が「又一日命が延びた」などと書いていたことに衝撃を受けた。ずっと近くにいた父だけれど、父にも若かったときがあり、私が知らないこともたくさんあるんだと気付かされました。

 父とアンネが同じ年に生まれていたことにも興味を引かれ、二つの日記を携え、アンネの足跡をたどる旅に出て、作品も書きました。完成前に父が亡くなったことが心残りでしたが…。

 ホームズざんまいの両親に代わり、私の面倒を見てくれていたのは母方の祖母でした。祖母の死後、実は血のつながりはないことを知りました。でも、私にとって大事な祖母であることに変わりはない。血のつながりって何だろう、と思いました。何でも分かっているようで知らないことがあるのも家族だし、血縁だけが家族でもない。家族に型なんてないんだと思います。

 そんな家で育ったのに三年前、娘が生まれると「母親っぽくきちんとしなきゃ」と思ってしまった。自分でも無意識に「型」にとらわれていたのかもしれません。でも、両親も好きなように生きていて、子どもだった私はそれを面白いな、と思っていた。そう思うと気が楽です。子育て中の人たちに声を大にして言いたい。家はぐちゃぐちゃでも子は育つ!と(笑)。

 聞き手・小林由比/写真・安江実

<こばやし・えりか> 1978年生まれ。“放射能”の歴史をひもとき、その存在を問い掛ける小説「マダム・キュリーと朝食を」で芥川賞・三島賞候補。他に、同テーマのコミック「光の子ども」1〜3巻、小説「トリニティ、トリニティ、トリニティ」など。「親愛なるキティーたちへ」は、アンネ・フランクと父の日記をめぐる作品。

 

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