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【暮らし】

「退職代行」広がる利用 いじめや慰留を回避 背景に人手不足

依頼者からの伝言を人事担当者に電話で伝える石和卓也さん=名古屋市瑞穂区で

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 本人に代わって、退職の意思を会社に伝える「退職代行」のサービスが広がっている。民法上は原則として、辞めたい日の二週間前までに申し出れば退職は可能だが、人手不足を理由に引き留められたり、パワハラなどを受けていて言い出しにくかったりといった事情を抱える人が利用しているようだ。一方で、サービスの質が低く、会社とのやりとりがうまくいかない事例も。 (出口有紀)

 「『仕事を辞めたい』という伝言を預かっております」。十二月中旬、名古屋市瑞穂区で退職代行サービスを営む「ワークナビ・com」の石和卓也さん(27)は、電話に出た人事担当者に切り出した。

 依頼主は関東地方の会社で働く十八歳の男性だ。前日夕、LINEで代行を頼んできた。石和さんは男性の話を聞き取り、勤め先の始業を待って退職届の出し方や制服などの返却方法を人事担当者に確認。やりとりは十分ほどで終わった。

 弁護士の資格がない石和さんができるのは、依頼主の意向を会社側に伝えることだけ。残業代の未払い請求などはできない。弁護士資格を持たずに相手方と交渉、報酬を得ることは非弁行為に当たり、弁護士法で禁じられているためだ。同社では、依頼主と話し、交渉の必要性があると考えた場合は、国の労働基準監督署など公的な機関への相談を促している。

 二〇一二年から人材派遣を行う同社が、退職代行サービスを始めたのは昨年五月。登録者と企業を仲介する仕事と、退職希望者と会社との橋渡しをする仕事には共通点があると考えた。依頼は月平均四十〜五十件に上る。厚生労働省の調査では、一六年の大卒者の三人に一人が就職後、三年以内に離職。こうした事情もあり、依頼の多くは二十代前半という。

 昨年七月、「職場の雰囲気が悪い」などとして仕事を辞めた東京都内の男性(22)は、過去の経験から同社の利用を思いついた。七年ほど勤めた飲食店で退職を申し出た時のことだ。「ここで辞めると成長しない」と諭され、辞めるまでに半年以上かかった。「また精神論を持ち出されると面倒」と考え、退職を決めたその日、同社を通じて辞める意向を伝えた。手続きは全て同社を通じて確認。一度も出社せずに退職した。

 こうした代行サービスの利用は安易にも思えるが、背景には空前の人手不足がある。慰留が長引く例は少なくない。職場でのパワハラやいじめも深刻化。一八年八月から、勤務する法律事務所で退職代行を手掛ける弁護士小沢亜季子さん(32)は「職場で受けた暴力や暴言が原因で心を病み、退職を申し出ることができない人もいる」と明かす。

 全国の労基署に寄せられた民事上の労働トラブルに関する一八年度の個別労働紛争相談は二十六万六千五百三十五件。そのうち、労働者側から退職を申し出る「自己都合退職」を巡る相談は四万一千二百五十八件と、最多の「いじめ・嫌がらせ」に次いで二位。「解雇」にまつわる相談を上回って増加傾向だ。小沢さんも「近年は『一方的に解雇された』という相談に比べ、『辞めさせてもらえない』という声が多い」と話す。

 こうした中、入金後に音信不通になったり、メールを会社側に送るだけだったりの悪質な業者の増加が問題になっている。昨年設立された業界団体「日本退職代行協会」(東京都)によると、代行業者は現在五十社ほどで、料金は高くて数万円。協会はホームページに苦情申し入れの窓口を設けるなどしている。

 小沢さんは「トラブルの原因は、近年増えている代行業者の多くは非弁業者で交渉ができないこと」と指摘。「相手方と交渉が必要になって、お金だけ取られた」といった相談もあるという。「辞めることは法的に認められている。日頃から何が労働者の権利かを学んでほしい」と訴える。

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