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【暮らし】

<食卓ものがたり>大豆(静岡市清水区) 奇跡の甘さ 地域潤す福豆に

昨年10月の収穫祭で、鈴なりになった「ここ豆くん」を手にする静岡市立高校の生徒=静岡市清水区で

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 やや黄色がかった豆腐。一口食べると強い甘みが広がった。豆乳の糖度は一六・五。上質なマスクメロン並みの甘さという。

 原料の大豆は、静岡市清水区の山間地、山梨県境に近い中河内(なかごうち)地区でひっそり引き継がれ、栽培されてきた。地元の農事組合法人「みらい」代表理事大石章博さん(63)によると、話は五年前にさかのぼる。

 戦前から自宅でみそやしょうゆ造りにと栽培していた望月節子さん(88)が、「煮豆にしたらおいしいよ」と大豆を分けてくれた。一般的な大豆よりひと回り大粒。自宅で栽培した大石さんは枝豆で食べてその甘さに驚く。出自を知りたいと静岡大農学部の稲垣栄洋教授(51)に鑑定を依頼、由来ははっきりしないが地区固有の在来種の可能性が高いと判明した。

 一昨年秋は農家七軒の協力で一ヘクタールを栽培し、約六百キロを収穫。清水区の「エンドー豆腐」で豆腐をつくって限定的に販売した。遠藤明美社長(73)は「巡り合ったことがない甘さ。豆乳がさらっとしていて豆腐づくりがしやすい」と話す。

 「在来作物は地域の生活の中で守られてきた。この大豆の甘さや味の深み、風味は中河内の気候、風土でしか出ない」と稲垣さんは言う。地元は「ここにしかない大豆」として「ここ豆くん」と名付け、農家による「ここ豆会」を結成。大石さんによると、同じ豆をまいても土が違うとはっきり味が異なる。地域に根付いてお金を生む「福豆」にするには、糖度を維持できる土がカギだ。「これは、ここ豆くんを後世に引き継ぐための条件。確かなものを地域が一体となってつくりたい」

 同じ七軒が栽培した昨年は約二トンを収穫。十月に開いた収穫祭では、鮮やかな緑色で歯応えが強く、ほんのり甘いゆでたての枝豆を堪能した。静岡市立高校の生徒がここ豆くんを使ってドーナツを作ったり、地元のケーキ店が杏仁(あんにん)豆腐やプリンを試作するなど、新商品の模索も始まっている。

 ここ豆会の佐藤美雪会長(67)は「豆乳は臭みがなく濃くて甘い。新商品は、若い人たちのアイデアを生かしたい」。小さな豆が、緑豊かで静かな山里に大きな夢を広げる。

 文・写真 五十住和樹

◆買う

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 昨年9月に商標登録した「ここ豆くん」の豆腐を2月から、エンドー豆腐(静岡市清水区三保)が製造販売を始めた。420グラムの「ふわふわ豆腐」=写真=が800円(税抜き)、300グラムの絹豆腐が500円(同)。毎週金曜は同社の工場直営店で、毎土曜は同店と「しずてつストア入江店」(同区入江1)でその日の朝の作りたてを販売する。収穫量が少ないため、当面は限定販売が続く見込み。問い合わせは清水区役所地域振興係=電054(354)2028。

 

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