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【首都圏】

<しみん発>音楽が紡ぐ 石巻との絆 ピアニスト・佐野裕美子さん(36)

復興拠点となった呉服店「かめ七」でコンサートを開く佐野裕美子さん(右)=宮城県石巻市で(佐野裕美子さん提供)

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 ホールで演奏するコンサートの楽しみが、東日本大震災で大きく変わった。「聴いてくれる人がたとえ一人でも、こちらから出向き、その人に向けた演奏を」。さいたま市緑区のピアニスト佐野裕美子さん(36)は、「自分の居場所」という宮城県石巻市で奏でる。演奏を通して多くの人たちが得難い友、そして家族になった。 (田口透)

 震災直後の二〇一一年三月下旬、友人を支えようと石巻市に入った。歩き疲れた自分たちに、地元の男性が飲み水をくれた。その優しさが心に染みた。「申し訳ない、恩返ししたい」と素直に思った。その夏、医療チームでボランティア活動をする薬剤師の母親に同行し、気仙沼市に入った。

 避難所の体育館で、男性ボランティアに「(医療者ではなく)ピアニストなので役に立てず、すみません」と謝った。男性は壇上のピアノに近づき「弾いていただけますか」。蒸し暑い体育館には多くの人が横になっていて、そんな雰囲気ではない。小さな音で美空ひばりの「川の流れのように」を弾き出すと、近づいてきたおばあさんが泣きながら歌い始めた。

 医療チームでは、鍵盤ハーモニカを奏でた。開催した音楽会では童謡や唱歌を伴奏し、泣きながら笑う人たちの歌声を聴いた。被災者のつらい話もたくさん聞いた。

 仲間たちとコンサートを楽しんできた自分の「こころざし」が変わった。

 石巻市でボランティアの女性に相談し、音楽で思いを伝える「音手紙」を始めた。ボランティアの拠点での「歌声喫茶」で伴奏し、隣接する復興拠点の呉服店「かめ七」ではクラシックのコンサートを何度も開いた。呉服店の新ビルは今秋、完成する。店主夫妻からは「ピアノを置くから、またコンサートをやってね」と言われている。「石巻はもはや私が帰る場所。埼玉の自宅に戻る時『行ってらっしゃい』と見送ってもらえるんですよ」と笑う。

 友人の歯科医師の言葉が心に残る。「来てくれるだけでうれしいんだよ」

 何度も通う中で、人々が生きるために前を向き、歩いていこうとする姿を実感している。「今は(石巻に)行って、たくさんの友だちに会えるのが心から楽しい。私には音楽しかないから音楽でお礼をすると、もっとたくさん返してもらっちゃうんですよね」

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<さの・ゆみこ> さいたま市緑区出身。武蔵野音大ピアノ科卒。実家でピアノ教室を開設。大学在学中の2005年から友人らと「チーム999(サンキュー)」として多彩なコンサート活動をしていた。 

 

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