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【社会】

町工場カヌー、激流に挑む 東京五輪へ 推進力は若き情熱

郷慎之輔さん

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 二〇二〇年の東京五輪で国産カヌーを疾走させたい−。カヌー製作未経験の東京都内の町工場などが、初の競技用国産カヌーの開発に取り組んでいる。ある若いカヌー乗りの情熱が、プロジェクトの大きな推進力になっている。 (中村真暁)

 「日本人の体格に合うカヌーを作りたい」。プロジェクトで船艇や座席の製作を担うテックラボ(東京都多摩市)の社員郷(ごう)慎之輔さん(29)=同市=の長年の悲願だ。小学生時代にカヌーを始め、現在は千葉県のカヌークラブで指導に当たっている。

 競技用カヌーは強豪国の東欧製が主流で、体が大きい欧米人向けの形状。比較的小柄な日本人には操作しづらく、トップクラスの選手でも海外製を改造するしかない。

 郷さんは鉄鋼会社に就職したものの、カヌー作りへの思いが断ち切れずに退社。一六年夏、ネットで見つけたテックラボの門をたたいた。

 レーシングカー部品の試作品などを手がける十五人ほどの小さな会社だが、カヌーと同じ素材のカーボンを扱っていた。「設計から製作まで全過程に関われる技術がある」と確信し、面接時には愛用のカヌーを持ち込んで熱意を示した。白石勝取締役は「志がある面白いヤツが来た」と採用した。

 入社後、海外製の最新型カヌーを自費で購入したり、会社の先輩から指導を受けたりしながら研究を重ねた。自分たちだけでは限界を感じていた一六年末、東洋大(文京区)などの国産カヌー開発プロジェクトに連絡。テックラボの技術をPRし、チームに加わった。

 昨年十月、都内でお披露目された試験艇は同社作。郷さんは技術者としては駆け出しだが、競技者の立場から形状などについて積極的にアイデアを出した。

 とはいえ開発はまだ途上。一年半後の五輪本番で採用されるかは未知数だ。だが郷さんは「日本カヌー界の大きな一歩になっている」と前を見据える。

多摩川上流を下る「水走」の試験艇=望月修教授提供

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◆今夏にも試合用製作

 初の競技用国産カヌー開発プロジェクトは二〇一六年五月、東洋大と東京東信用金庫(墨田区)の協定締結を機に発足した。テックラボのほか、外装デザインのKARA−FULL(台東区)、ラッピング担当のワイエムジーワン(墨田区)、選手のウエア開発のリーディングカンパニー(北区)が参加している。

 開発中のカヌーは、ゲートを通過していくスラローム競技用。「古事記」などに登場する水の神にちなみ、「水走(みつは)(MITSUHA)」と名付けられた。

 昨年十月に披露した試験艇は三代目。船後部は水流が船艇を押しやすくなるよう抵抗を増やし、水を受け止める機能を付けた。水の抵抗をなくすことに着目した海外製とは異なり、場面ごとに抵抗の大小を使い分けている。

 「自然を征服するのではなく、自然の力をそのまま生かした」と話すのは研究開発責任者の望月修東洋大教授。「これまでのコピーでは世界を追い抜けない。動物を観察し、その機能をいかに使うかにも着目している。目指すはゼロから作る新しいカヌーでの勝利」と強調する。今夏にも試合に使える船艇を製作予定。「水走」のホームページから寄付を受け付けている。

 一六年のリオデジャネイロ五輪では、スラロームで日本勢初の銅メダルを獲得している。プロジェクトチームによると、日本代表レベルのトップ選手も水走に興味を示しているという。

 実際に試乗し、助言してきた東京都カヌー協会の藤野強理事長は「加速力がいい。細かな課題をクリアすれば、良い舟になる」と太鼓判を押す。

 

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