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【社会】

<アウティングなき社会へ>(中)「彼は昔の自分」命守る制度を 退職し活動に専念「社会を変える」

弁護士を目指していた男子学生の本棚。手前は、よく弾いていたチェロの形をしたオルゴール=愛知県内で

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 二〇一六年夏、五輪の高揚感の真っただ中にあったブラジル・リオデジャネイロ。松中権(ごん)さん(42)は、ホテルで見たネットニュースに血の気が引いた。同性愛者であることを無料通信アプリ「LINE(ライン)」の同級生グループ内で明かされた後、校舎から転落死した一橋大の法科大学院の男子学生=当時(25)=の遺族が、大学などに損害賠償を求める訴訟を起こしていたのだ。同大は松中さんの母校である。「彼は、かつての自分だ」

 大手広告会社電通の日本政府首相官邸担当営業として出張中だった。同性愛をひた隠しにした大学時代がフラッシュバックする。過呼吸に襲われ、「東京五輪を(性の多様性を表す)レインボーに」と浮かれていた気分は吹き飛んだ。

 大学時代は「何とかつじつまを合わせ、ごまかし、うそをつき、笑い、楽しんでいるふりをした」。四年生の時、逃げるように留学したオーストラリアで男性同士が堂々と手をつないで歩く姿に励まされ、初めて周囲に打ち明けた。

 入社八年目、研修で半年間滞在した米ニューヨークでも、同性愛者が生き生きと働く姿を目の当たりにした。帰国後の一〇年、LGBTなど性的少数者を支援する団体を設立。そのころから徐々に職場で打ち明けた。

 LGBT団体では明るく楽しく、ポジティブに発信する一方、「人権問題」の面を強調するのは避けていた。しかし、男子学生の転落死で考えを改めた。「これは人権問題であり、命を守る法制度が必要だ」

 電通を退職し、LGBTの活動に専念。差別をなくす法制度を求める集会を国会で開いたり、困窮するLGBTの人が使えるシェルターの開設を支援したりした。「社会は勝手に変わってくれない」と覚悟する。

 異性を好きになるか、同性を好きになるかといった「性的指向」などを本人の意思に反して公表する「アウティング」は、男子学生の転落死をきっかけに社会問題化しつつある。

 遺族の提訴が報道された後、国際基督教大(東京都三鷹市)ジェンダー研究センターは、学生の不安を解消する努力を約束し、LGBTを含む少数者対応の見直しを学内外へ向けて呼び掛ける声明をホームページに掲載した。

 当時のセンター長、生駒夏美教授は「転落死は、差別意識が厳然と存在するのに、LGBTという言葉だけ表面上もてはやされる現状をあぶり出した」と振り返る。一七年三月には、人権についての学長宣言が発表され、「アウティングを含むセクシュアルハラスメントの根絶を目指す」との旨が明記された。

 一橋大の地元である東京都国立市は昨年四月、アウティングを禁じる全国初の条例を施行した。

 男子学生の父親は、松中さんの存在を関係者を通じて知った。「こうして動いてくれる人がいるのは心強い。もっと早く、息子と知り合ってくれていたら」と複雑な胸の内を明かす。母親は、報道などで見聞きした国際基督教大や国立市の動きに励まされたという。「少しでも世の中が変わっていくなら、息子は永遠に生きていると思えます」 (奥野斐)

この企画は上・中・下の3回連載です。全文はこちらで読めます。

 

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