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【社会】

大学側の責任認めず 一橋大同性愛暴露訴訟 東京地裁、遺族の請求を棄却

「一橋大アウティング裁判」の判決後、涙ながらに記者会見する南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士=東京・霞が関の司法記者クラブで

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 一橋大法科大学院の男子学生=当時(25)=が校舎から転落死したのは、同性愛者であることを同級生が暴露(アウティング)したことに対して大学が適切な対応を取らなかったためだなどとして、両親が大学に約八千五百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は二十七日、「大学が適切な対応を怠ったとは認められない」として請求を棄却した。 (蜘手美鶴)

 訴状によると、男子学生は二〇一五年四月、同級生に恋愛感情を告白した。同級生は六月、無料通信アプリLINE(ライン)のグループに「お前がゲイであることを隠しておくのムリだ」と実名を挙げて投稿。男子学生は精神不安定となって担当教授やハラスメント相談室の相談員らに相談したが、大学はクラス替えなどの対策をせず、同年八月、授業中にパニック発作を起こし転落死したとしている。

 両親は同級生にも損害賠償を求めていたが、一八年一月に和解した。

 判決理由で鈴木正紀裁判長は、大学のセクハラ対策について「講義やガイダンスをしていればアウティングが発生しなかったとはいえない」と指摘した。

 その上で、被害を相談した教授について「クラス替えをしなかったことが安全配慮義務に違反するとはいえない」とし、相談員についても「クラス替えの必要性を教授らに進言する義務はなかった」と認定した。

 一橋大は「引き続き、マイノリティーの方々の権利について啓発と保護に努める」とコメントを発表した。

◆「裁判所、本質踏み込まず」弁護側落胆

 「裁判所は本質に踏み込んだ判断を一切しなかった。残念でならない」。判決の言い渡し後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した原告代理人の南和行弁護士は肩を落とした。

 南弁護士は、時折涙ぐみながら男子学生の両親と妹の談話を代読。父は「人が一人亡くなった事実があるのに、うわべだけで判断したような判決だ」と批判し、妹は「アウティングをしたことも大学の対応も、まるで肯定されたような気持ち」と嘆いた。

 南弁護士は「お母さんは『いろんな人が社会問題として意識してくれるから、勇気づけられる』と喜んでいた」と判決前の様子を紹介し、「裁判官には勇気がないのか」と憤った。

 実際、原告側は「アウティングは性的指向というデリケートな問題に関わり、人間関係を壊すものだ」として大学の対応を問題視していたが、判決はアウティングがなぜ危険なのかやどう対処すべきなのかに言及しなかった。

 司法が明確な警鐘を鳴らさない中、最近ではアウティングを防ぐ取り組みを始める大学もある。筑波大では昨年、LGBT対応のガイドラインにアウティングの項目を新たに加えた。一橋大の地元、東京都国立市も昨年四月、「公表の自由は個人の権利として保障される」とうたった全国初の「アウティング禁止条例」を施行した。

 国際基督教大ジェンダー研究センター元センター長の生駒夏美教授は、今回の判決を「非常に残念」としつつ、「今回の提訴により、アウティングが大学内で起きていることが広く知られた。全ての大学が、相談体制を整え、差別意識をなくす啓発の契機にしてほしい」と話す。

 大学のハラスメント対策に詳しい広島大の北仲千里准教授(社会学)は「男子学生のアウティング被害を知った大学関係者は本来、学生が元の就学環境を取り戻せるよう、より積極的に動くべきだった。大学関係者のLGBTへの認識をあらためないと、今後も同じような問題は起きる」と訴えた。 (奥野斐、小野沢健太)

 

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