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【社会】

<東日本大震災8年>石巻送迎バス犠牲 命の教訓、もう二度と

一部保存に向けた工事の準備のため覆われた旧門脇小学校の前で、震災直後の写真を見せ「ここで降ろしてくれてさえいたら」と話す佐藤美香さん=宮城県石巻市で

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 東日本大震災の津波で送迎バスが流され、園児五人が犠牲になった宮城県石巻市の私立日和(ひより)幼稚園で、長女の佐藤愛梨(あいり)ちゃん=当時(6つ)=を亡くした母親の美香さん(44)。「こういうことは二度と起きてほしくない。私たち親が声を上げないと何も変わらない」と震災の教訓を伝え続けている。 (西田義洋)

佐藤愛梨ちゃん=美香さん提供

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 「ここで降ろして、歩いて園に連れ帰ってくれたら助かったのに」。津波に伴う火災被害を伝える震災遺構として、一部保存が決まった石巻市立門脇(かどのわき)小学校(閉校)の校舎の前。美香さんが、現場を案内しながら声を震わせた。

 日和幼稚園は、門脇小の横の階段を数分上った、標高約二十三メートルの高台にあった。門脇小の児童らは、この階段を上って日和山公園に避難した。

 愛梨ちゃんは本来、陸側を走るバスで帰るはずだった。だが、地震が起き、大津波警報の発令を防災無線が呼び掛ける中、海側を走るバスに乗せられて園を出た。バスは門脇小に止まり、園長の指示で園に戻ることに。園児を降ろして階段を上がれば難を逃れたはずが、バスは園児を乗せたまま渋滞に巻き込まれ、大津波に襲われた。

 「あそこの海と川に挟まれた門脇保育所では、山の上にある石巻保育所に避難して、子どもたちが助かった」。高台に上った美香さんはこう話し、避難訓練のあり方を問題視している。

 保育所には厚生労働省の基準に基づき、火事や地震などを想定した避難訓練が少なくとも毎月一回義務付けられている。一方、文部科学省所管の幼稚園は、消防法で年二回以上としか定められていない。「訓練後に反省や改善点を話し合う中で、先生たちにも『命を預かっている』という意識が生まれるはず。せめて月一回の訓練を義務付けられないものか」と訴える。

 震災から四年後の五月、美香さんたちは愛梨ちゃんたちの遺体が見つかった現場に、白い花が強く誇らしげに咲いているのを見つけ、支援者が一輪だけ摘み取った。しおれてしまった花を自宅の鉢に埋めると芽が出て、翌年花を咲かせた。「私はここにいるよ」と訴えかけているような気がした。「あいりちゃん」と名づけられた花を増やす取り組みは東京や愛知など各地に広がる。「お花がその地で根付くように防災への意識も根付いてほしい」

 昨年三月からは、愛梨ちゃんが持っていて、火災の熱で溶けたクレヨンケースと焼けた上履きを、現場近くの伝承施設「南浜つなぐ館」で公開している。今月一日には、現場近くに慰霊碑を建立。碑には、園児らの名前を織り交ぜ、「あなたの笑顔にまた会いたい」と詠んだ詩を刻んだ。十日に除幕式を行う。

 「命の上に成り立つ教訓なんて、あってはならない。だけど、首都直下地震や南海トラフ地震が近いといわれる中、まだ被災していない『未災地』の人に教訓を伝えたい」

愛梨ちゃんの遺品の溶けたクレヨンケースと焼けた上履き=同市の「南浜つなぐ館」で

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