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【社会】

日本の研究力が低下している 東京工業大栄誉教授・大隅良典さんに聞く

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 三十年で十八人。平成にノーベル賞を受けた日本出身の研究者の数だ。米国に次ぐ世界二位だ。一方で、日本の研究力は地盤沈下を始めているという。二〇一六年にノーベル医学生理学賞を受賞した東京工業大の大隅良典栄誉教授は、基礎科学の危機を訴え、支援を始めている。 (三輪喜人)

 −三十年を振り返ると。 

 ノーベル賞を受けたオートファジーの研究は平成とともに始まり広がりました。一九八八年に飢餓状態の酵母を顕微鏡で観察していたのが始まりです。その後の生物学では技術的な進歩がすばらしく、細胞の中にある一分子の動きが見える蛍光顕微鏡が開発されました。

 それには二〇〇八年ノーベル化学賞の下村脩先生が発見した、緑色蛍光タンパク質が革命的な役割を果たしています。遺伝学、生化学、細胞生物学など基礎科学が進み、生物分野は目覚ましく発展しました。三十年たってオートファジーの本当の理解はこれからという感じです。

 −平成に多くの日本人が受賞したのはなぜでしょう。

 私の時代は自由度が高く今より研究がやりやすかった。昔、大学の先生は薄給だけど「好きなことができて幸せですね」と言われた。いま「好きなことやってます」と胸を張れる先生は少ないのでは。研究費の獲得などにきゅうきゅうとして有能な人が能力を発揮できずにいるのです。

 −若手も苦労しています。

 若い人が、挑戦的な仕事をしにくい環境にいると思います。新しい課題に挑むとなると簡単には論文が出ません。私も最初の論文まで四年かかりました。今ならとても研究費をもらえない。確実に、はじき飛ばされていたと思います。ものすごく短期間で費用対効果が問われ、みな疲弊しています。

 −何が原因ですか。

 (国からの研究交付金が減り)大学が貧しくなった。経常的な研究費がなくなり、すべて競争的資金になって、外部の研究費を獲得することが必須になりました。

 −競争も過酷です。

 そもそも設備がない研究室の人と、何億円も予算のある人が同じ基準で、競争にならない競争を強いられています。選ばれた少数のグループだけでは駄目で、多様な大学に多様な人材がいることが大事。競争だからといって最低限の研究費もない大学をつくるのは大変な人材のロスだと思います。このままでは地方大学の理学系学部は統廃合されていくかも。今は大学組織を改革することが評価され、良い仕組みがあって残そうとしても評価されません。

 −大学の研究力が下がっているといわれます。

 大学院が企業の予備校化しています。「就職が良いから○○大に入学しました」という学生が多く、修士課程で就職が決まると研究意欲はとても下がる。偏差値教育や少子化のせいか、若い人が夢を描けず保守的になっています。

 能力を磨いて挑戦しようという人が少なく、博士課程に進む人も激減しています。研究室の活性の多くは大学院生が支えてきました。基礎をしっかり学んだ博士がいないと日本の科学を支えられない。東京大の工学部でも博士課程へ進む人は減っている。日本の将来を支えるには、どれほどの博士が必要かという科学的な見方が大切です。人口減少が深刻だからこそ若者たちがしっかり高等教育を受けてくれないといけないのに、逆行しているように思えます。

 −ノーベル賞受賞後に財団をつくり、基礎研究を支援していますね。

 基礎科学を大事にすべきだと訴えてきて少しずつ認識は広がっています。基礎科学に力を入れれば、いろんな波及効果があります。研究室での学びが楽しく充実し、一部の人は大学を支え、社会に出て活躍する人の力も養われます。研究にじっくり取り組み、問題を発見し解決する力をつけるのが大切です。すぐ役立つというのではなく、十年後、百年後に思いをはせる長期的な視野を研究者も企業も政府も持つべきでしょう。人類の未来とは、科学を多くの人が身近に感じ、文化の一つとして認める社会になることだと思います。

<おおすみ・よしのり> 1945年福岡市生まれ。67年東京大教養学部卒。74年理学博士。東京大助教授などを経て、96年基礎生物学研究所教授。2009年、東京工業大特任教授。14年に同大栄誉教授。

 生物の細胞内で起こる、タンパク質を分解して再利用する「オートファジー」(自食作用)という現象を、1988年に酵母を使って顕微鏡で初めて観察。その主要な仕組みを解明。パーキンソン病や糖尿病、がんなどに関係すると注目され、研究が広がっている。

 2006年に日本学士院賞。15年にガードナー国際賞と慶応医学賞、16年にはノーベル医学生理学賞。

 

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