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【社会】

<平成という時代>「日本人は通用しない」 マインドセット変えた野茂

1995年6月2日のメッツ戦でメジャー初勝利を挙げ、日本人大リーガーの草分け的存在となったドジャースの野茂英雄投手=ロイター・共同

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 一九九五(平成七)年六月二日は、平成のスポーツ史を語る上で欠かせない一日となった。米大リーグ・ドジャースの野茂英雄投手がメジャー初勝利を挙げた。大きく体をひねる独特なフォームと落差のあるフォークボール。野茂投手が起こした「トルネード旋風」は、それまでの常識をも吹き飛ばすこととなった。

 平成元年に入社後、三十年にわたってスポーツ取材をしてきた。振り返ると、九四年の中日−巨人によるプロ野球史上初の同率首位最終決戦「10・8」や九九年の「松坂−イチロー初対決」といった名場面の数々を思い出す。しかし、平成という時代で、最も印象深い出来事は野茂投手の米国挑戦だったと思う。

 野茂投手が開けた扉から、次々と世界に飛び出していった。イチロー選手、松井秀喜選手ら、日本人大リーガーは今や五十人を超える。サッカーでも九四年に三浦知良選手がイタリア・セリエAに移籍。九八年には中田英寿選手が続いた。平成後期になると、スポーツ界全体で海外移籍の流れが加速していった。

 「マインドセット」という言葉がある。心理学などで用いられ、直訳すれば「考え方」だが、ここでは「思い込み」や「先入観」と訳してみる。平成という時代は、この「マインドセット」が変わった時代と言って良いだろう。

 陸上競技の指導者で、四百メートルハードルの日本記録保持者・為末大氏の講演でこの言葉を知った。為末氏によると、マインドセットとは行動する前の考える癖のことで、物事は変わらないと考える「フィックスト・マインドセット」と、物事は変わるんだと考える「グロース・マインドセット」の二種類があるという。

 「変わることが良いとは言わない。ただ、変わるということを前提に話をするのが大事。変わると思っていると、変わる。だから、グロースは勝者のマインドセットと言われる」と為末氏。当時の常識は「日本人選手は米国で通用しない」。それが野茂投手の成功で「我々もできる」に変わった。常識は変わると皆が気付いた瞬間だった。

 先駆者本人を取材するのは、骨が折れた。野茂投手は近鉄時代から口数が少なく、思ったような答えが引き出せない。しっかりと野球を見て、質問を考えなければいけないと考えを改めた。記者のマインドセットも変わった。

 野球やサッカーなどの近代スポーツは多くが明治時代に海外から伝来。まかれた種は大正、昭和を経て、平成で花開いた。そして、きたるべき令和では、さらに咲き誇る予感もある。

 期待するのは大谷翔平選手だ。投手か、野手かの常識にとらわれない「二刀流」で新しい野球の形を見せてくれた青年は昨年の帰国会見で「大リーグは小さな頃からテレビで見ていたが、実際にその場に立つと、もっと面白さが実感できる。(同じようにテレビを見ている)今の子どもたちと一緒にプレーしたい」と呼び掛けた。大谷選手に続く子どもたちがどのようなプレーを見せてくれるのか。楽しみだ。 (谷野哲郎)

<野茂の米国挑戦> 野茂英雄投手は1994年、近鉄に複数年契約を申し出て球団と対立。翌年1月に退団し、マイナー契約でロサンゼルス・ドジャースに入団した。5月にメジャー初登板を果たし、65年の村上雅則投手以来、2人目の日本人大リーガーに。野茂投手はこの年13勝を挙げ、ナ・リーグ新人王に輝いた。

 

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