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【社会】

<代替わり考>(下)退位 平成の「人間宣言」 元宮内庁参与・三谷太一郎さん

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 天皇陛下は四月三十日に退位される。その一番の意義は、天皇が自らの意思と判断で退位する自由と責任を有していると示したことだ。

 この問題は国会や識者もきちんと議論してこなかった。それが今回、はからずも現天皇の決断によって光が当てられ、退位特例法という形で具体的な制度改正に結びついた。

 象徴天皇の活動は、政治的権能を有しないという憲法上の制約の範囲内であることが前提となる。しかし、従来は憲法上の制約が強調されるあまり、天皇の能動性や、天皇自身の自由とか責任などの問題について、保守派も反保守派も概して否定的な見解だった。われわれ学者にとっても、この問題は盲点だった。

 天皇自らの決断は、昭和天皇の終戦の詔勅という例外的な形で過去にもあった。今回も特例法で退位を認めているように例外的なケースであることに変わりないが、天皇の自由意思に基づく退位は前例化されるであろう。

 「平成」の天皇の歩みは、憲法第一条の「天皇の地位は主権の存する日本国民の総意に基く」という条文と密接不可分な関係にある。

 「国民の総意」とは何か。単なる国民の多数意思でもなければ、特定の少数意思でもない。さまざまな国民の意思の算術的合計としての「全体意思」という意味でもない。あえていえば、国民一人一人の個別の意思に共通する「一般意思」と呼ばれるものだ。

 多数者のルールを認めながら、少数者の権利を尊重するのが民主主義で、現天皇はこの原則に沿って能動的に行動することこそが象徴天皇の役割であると考えられたのではないか。

 現天皇が退位意向をにじませた二〇一六年八月八日の「おことば」の中で、「国民の総意」を言い表している文言は「信頼と敬愛」だ。これは終戦翌年の一九四六年一月一日の昭和天皇の「人間宣言」にも使われている。現天皇は「おことば」で「天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」と述べている。

 象徴の務めを通じて育まれる「信頼と敬愛」によって、国民と結びついてきたことへの、現天皇の自負を感じる。その意味で、現天皇の「おことば」は平成の「人間宣言」であり、象徴天皇の理念の表現だったといえる。

 天皇が人間であることを宣言することは、人間としての自由と責任を認めることだ。そのことを示したことに「おことば」の画期的な意義がある。 (聞き手・吉原康和)

<みたに・たいちろう> 1936年、岡山市生まれ。専門は日本政治外交史。東京大学法学部卒業。東大教授、日本政治学会理事長などを歴任。2006年から15年まで宮内庁参与。著書に「日本の近代とは何であったか−問題史的考察」(岩波新書)など。

 

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