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【社会】

<新たな時代に>(上)スマホ1台、誰でも起業 メディアアーティスト・落合陽一さん

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 「令和」の幕が上がった。どんな時代にしたいか。そのために何をするべきか。平成から実践を重ね、新時代を担う若手に聞いた。

 平成は停滞の時代だった。グーグルやアマゾンなど「GAFA」と呼ばれる米国のITプラットフォーム企業と日本企業が本気で戦ったかといえば、戦わずして負けた。中国は今も戦っている。

 なぜ日本は不戦敗になったのか。限界費用(生産量増に伴う総費用増)の安いITのビジネスモデルに転換できなかったからだろう。自動車などは何千人かで造っていたが、スマートフォンのアプリなら少人数で作れる。ソフトウエア型の産業構造に対応できる人的文化を育ててこなかった。

 新しいビジネスモデルには知的生産力が重要だ。シリコンバレーでは良いアイデアがあれば投資を受けられるし、経営人材も入って実現できる。

 知的生産活動には、人が、心が、自由であるべきだ。ところが日本では学生も、既存のハードウエア型産業構造やそれに付随する社会に順応するべきだという見えないレールに縛られている。従来の肩書にこだわることは、産業構造の転換期には足かせにしかならない。

 僕が指導する大学研究室の卒業生も、六割は大企業に行く。でも、報酬をもらえるプロジェクトが複数あれば、自由な働き方ができるかもしれない。

 GAFAに対抗する必要はない。同じようなサービスをやろうとしても、二番煎じしかできない。自分が新しいと思うものを作ればいい。

 新時代を捉えるメタファー(暗喩)の一つは「デジタルによる発酵」だ。自然界に存在するコウジカビのおかげで、米が酒になる。同じように、今は僕たちの周りにデジタルがあり、限界費用が低く、インターネットでつながっていることで「発酵」が起きる。社会のあちこちから、これまでとは違う出自や価値観のサービスが出てくる。

 スマホが登場して全てのサービスはアプリになった。電話もテレビも、車だってそう。アプリで簡単にタクシーを呼べる。

 スマホ一つあれば何でもできる。しかも、資金がなくても始められる。サイトがないなら、立ち上げればいい。良い情報を発信すれば、広告を打たなくても広まる。

 メールだって課金だって、サービスはいくらでもあるから、GAFAのプラットフォームを使わなくてもいいかもしれない。東京でなくても、地方でもできる。

 少子高齢化やインフラの老朽化が進む日本では、テクノロジーを導入するしかない。人口減で人がいないんだから、ロボットや機械学習を使う必然性も生まれる。

 例えば僕の研究室では、車いすの自動運転を研究している。お年寄りが車いすからベッドに移動するとき、介護者一人が車いすを支え、もう一人が抱きかかえる。車いすを自動で操作できれば、介護者が一人で済み、コストが軽減される。適度な自動化は対話も増えサービスが向上する。

 どこも現場はきつい。今日より明日が良くなるように、社会にテクノロジーを入れていく。使えるツールをひたすら使い、なければ作るってことだと思う。地味なことかもしれないけど、手を動かし続けることが必要だろう。(聞き手は共同通信編集委員・原真)

<おちあい・よういち> 1987年東京都生まれ。筑波大准教授。自ら経営するピクシーダストテクノロジーズや大学で先端技術を生かしたさまざまなプロジェクトに関わる。著書に「デジタルネイチャー」「日本進化論」など。

 

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