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【社会】

<新たな時代に>(中)福島を高福祉地域に 地域活動家・小松理虔さん

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 福島県いわき市の小名浜地区で、地域づくりの活動をしています。同世代が集まる多目的スペースを運営したり、食や観光、アートのイベントを企画したり。

 福島には、おいしい食べ物も美しい自然も、原発も工場もある。かつては常磐炭鉱もあって、エネルギーを中心に、首都圏の便利な暮らし、ひいては日本の近代を支えてきました。だから県外の人にも、原発事故を人ごとにしてほしくない。

 事故後、福島の人のほとんどは脱原発すべきだと思っていたはずです。でも「福島には人が住めない」などと言う極端な脱原発運動家とは一緒になれない。東日本大震災で、お互いさまということを学んだはずなのに、放射能と賠償金で社会が引き裂かれてしまった。

 常磐沖で魚を釣って放射性物質を測り、食べる活動をしているだけで、「御用団体」と呼ばれた。一方、放射能が不安な人に寄り添うべきだと話せば、「デマを容認するのか」と非難されたこともある。「賠償金をもらっている人まで支援する余裕はない」との声も聞きました。

 対話にならず、極端な意見の応酬が続いた。福島の人は語らなくなり、県外の人は福島に関わりにくくなってしまった。

 僕も最初は、科学的なデータを示せば、理解してもらえると思っていました。ところが、不安な人を説き伏せようとしても、拒絶される。自分も疲れてしまう。

 かまぼこメーカーに勤めていたとき、会員制交流サイト(SNS)に「福島のかまぼこは放射性廃棄物と一緒」という書き込みがあった。「不安は分かります。他県産のかまぼこを買ってください。いつか福島のものも安全だと思われたら、お買い上げください」と返事をしました。

 すると、やりとりを見ていた人が「悔しいだろうに、真摯(しんし)に対応した。応援する」と、うちのかまぼこを買ってくれたんです。目の前の人の向こうに、膨大なお客さんがいることに気付いた。

 その人たちをつかまえるためには、楽しいことをやらないと。例えば、福島に来て、魚を食べて酒を飲む。それだけでもいい。福島に関わってくれる人が増えれば、自然と正しい情報も伝わる。楽しむことが忘却や風化への抵抗になります。体験を持ち帰ってもらえば、電気の使い方など行動が変わるんじゃないか。

 元号が変わっても、福島が直面する課題は変わらない。世界的に分断が進む中、これからは、他者にも自分にも優しくなれる時代になるといい。

 高齢化で、誰かを支え、自身も支えられる時代にならざるを得ない。ただ、他者に寛容になるには、インセンティブが必要かもしれません。ポイントがたまるみたいに、人に何かしてあげると、見返りがあるような。

 福島にとって、原発事故は障害のようなもの。元の体には戻れない。福島は、外の人の関わりなしには、自立できない。事故を経験したからこそ、弱者に優しい高福祉地域にしたい。そして、僕が死ぬ頃には、原発がなくなっていてほしい。

 僕は震災で命拾いした。与えられた人生を全うしないと、亡くなった人たちに顔向けできません。 (聞き手は共同・原真)

 ◇ 

 お断り 最終回は八日以降に掲載します。

<こまつ・りけん> 1979年福島県生まれ。地元のテレビ局や中国・上海の日本語情報誌に勤務。2009年に帰郷、地域情報紙の編集などに携わる。著書「新復興論」で昨年の大仏次郎論壇賞。

 

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