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【社会】

強制起訴制度10年 光と影 埋もれた事実、判明契機

「有罪判決でけじめをつけられた」と話す沢田佳子さん=長野県松本市で

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 検察が不起訴とした事件を市民による検察審査会の判断で起訴に導ける「強制起訴制度」が導入されて二十一日で十年になる。制度がなければ闇に埋もれた事実が法廷で明らかにされ、有罪によって気持ちに区切りを付けられた被害者もいる。だが、強制起訴された九件のうち有罪はわずか二件。制度の見直しを求める声もある。 (小野沢健太、山田雄之)

 「もし不起訴で終わっていたら、今も相手を恨んでいたかもしれません。市民目線の判断に救われた」

 長野県松本市の沢田佳子さん(48)の次男武蔵さん(22)は小学六年だった二〇〇八年、柔道教室で指導者に投げ技をかけられ、脳に重い障害を負った。長野地検は不起訴としたが、長野検察審査会は二度にわたり「起訴すべきだ」と議決。指導者は強制起訴された。

 公判では指導者の元同僚が法廷で証言。事故後に「強く投げたのか」と聞くと、「強く投げた」と指導者が答えたことなどが明らかにされた。

 長野地裁は一四年、「小学生を力加減せずに投げれば、けがを負う危険があることは明らか」と禁錮一年、執行猶予三年の判決を言い渡し、確定した。

 沢田さんは「判決後、柔道界の安全対策が改善された。武蔵の体が元に戻るわけではないけど、気持ちにけじめはつけられた」と涙をこらえながら話した。

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 関東地方の検察審査会で六年前に審査員を務めた七十代男性は、交通事故の相手に大けがをさせながら、不起訴となった運転手を審査した。捜査段階の資料は数枚だけだった。

 「重大な結果を招いているのに、捜査機関はやっつけ仕事をしていた。裁判で白黒付けるべきだ」。他人の人生を左右する判断に緊張したが、「起訴相当」を選んだ。審査会としての結論は「不起訴不当」にとどまったものの、再捜査した検察は一転、運転手を起訴し、罰金刑につながった。

 制度導入に関わった九州大の大出良知名誉教授(刑事訴訟法)は「東京電力福島第一原発事故やJR福知山線脱線事故など、刑事裁判になったことで新たな証言が出てきたし、具体的事実が判明した。不起訴のままだと分からなかったことを検証できるようになった」と意義を強調する。

 だが、強制起訴された九件のうち結論が出たものは八件あるが、六件が無罪や免訴などに。検察が起訴を見送った事件を有罪に持ち込むハードルは高い。

 神戸学院大の春日勉教授(刑事訴訟法)は「審理が数年に及ぶ場合もある。被告は無罪になることが多いにもかかわらず、刑事責任も道義的責任も長期間追及されてしまう」と被告の負担の大きさを懸念する。

 「審査会で弁明する機会がないまま強制起訴されるなど問題も多い。制度導入から十年になるのに、見直しに向けた十分な議論がされていない」と批判した。

<強制起訴制度> 不起訴になった事件について、くじで選ばれた市民11人からなる検察審査会の判断で強制的な起訴を議決できる制度。審査員8人以上が「起訴すべきだ」と2回議決すると、裁判所が指定した弁護士が強制起訴する。検察官が独占してきた起訴の手続きに国民の感覚を反映させるため、検察審査会法を改正し、2009年5月21日に導入された。

 

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