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【社会】

<91342人 裁判員10年>(4)広すぎる「守秘」重圧に

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 「公開の法廷でのやりとりは、誰に話しても構いません。でも評議の秘密は守ってくださいね」

 千葉地裁であった連続殺傷事件の裁判員裁判で四年前、裁判員を務めた千葉県の会社員女性(51)は、裁判官三人と裁判員六人で有罪・無罪や量刑について話し合う評議の際、裁判官から折に触れそう言われた。守秘義務の説明もあり、罰則が科されることがあるとも聞かされたが、具体的に何を漏らしたらいけないかは知らされなかった。

 評議の五日間、「家族にも何も話さない」と決めた。でも、頭の中にあるのは事件のことばかり。食欲は落ち、不眠に陥った。

 迎えた判決の日。被告は無期懲役を言い渡されると、あざ笑うかのように騒ぎだし、退廷させられた。あんなに懸命に考えた結論なのに…。「一刻も早く忘れたいね」と裁判員仲間と言葉を交わして別れ、そのまま記憶にふたをした。

 裁判員法は、評議の経過や誰が何を発言したか、どう評決が割れたかを漏らしてはならないと定める。守秘義務の範囲が広い上にあいまいなことが、裁判員経験者の心理的ストレスにもつながっている。

 女性は判決日の帰り際、裁判所から「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」のチラシを受け取った。だが、「お役所に相談する気になれなかった」。実際、経験者九万一千三百四十二人のうち、窓口を利用したのは延べ四百十九人だけだ。

 「裁判員だったことは忘れよう」と思って過ごしていた半年後、経験者の交流会「レイ・ジャッジ・コミュニティー・クラブ」(LJCC)の存在を知った。

 「同じ経験をした人に会いたい」と顔を出すと、死刑判決に関わった人、同じように眠れなかった人がいた。「どんな服で行ったの?」「評議室のお菓子は何だった?」。他愛(たわい)もない会話に気持ちが軽くなり、何度も参加するようになった。

 裁判所は裁判員に「経験を伝えてもらい、制度の理解を広めてほしい」と求めるが、守秘義務が壁になっているのが現状。制度設計に携わった国学院大教授の四宮啓(しのみやさとる)弁護士は「評議の経過も全員で『秘密』と合意した部分以外は話せるようにするなど、運用を見直すべきだ」と提案する。

 女性は記憶のふたを開け、これから裁判員をやるかもしれない人たちに経験を伝えていこうと考えている。他人の人生を裁くことの重み、被害者遺族の声に痛めた自分の気持ち−。今では「いい経験だった」と思えるから。 =おわり

 (この連載は蜘手美鶴が担当しました)

 

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