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【社会】

江戸前ノリ異変 収量ピークの4分の1 千葉沿岸

ノリ養殖が行われている小櫃川河口の盤洲干潟=1日、千葉県木更津市で、本社ヘリ「あさづる」から(隈崎稔樹撮影)

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 海が、おかしい。東京湾では2018年度、千葉県産のノリの収穫量が過去最低を記録。一方でこれまでは冬場にいなくなったアジが釣れ、関係者を驚かせている。原因の一つは海水温の上昇だ。江戸前の海は、姿を変えてしまうのか。 (伊藤憲二)

 「ノリが採れないんで、生産者は困っているね。苦労していますよ」。そう話すのは、江戸時代から釣り船などを営んできた老舗の船宿「深川冨士見」(東京都江東区)五代目の石嶋一男さん(81)。かつて東京湾でノリ養殖も手掛けてきた石嶋さんは、水温が上がったことによるノリの不漁がよく分かるという。「海面に網を張ってノリを養殖するんだが、温度によって張り方が違うんだ。ノリは水温と水質なんだよ」

 ノリ養殖の中心は、千葉県沿岸だ。同県漁業協同組合連合会によると、昨年十一月から今年四月までの一八年度の収穫量は、一億四千万枚。記録を取り始めた一九七三年度以降、最低だった。ピークの七八年度には六億枚あったというから、四分の一以下だ。県漁連の担当者は「とくにこの四年間の減り方が目立つ。原因の一つは水温の上昇です」と話す。

 一、二度の上昇がカギを握るという。秋から翌年春にかけて海水で育てるが、水温は八度から一五、六度程度がいい。この上限を少しでも超えると、ノリ養殖には痛手となる。

 水温上昇は地球温暖化が一つの原因とみられるが、石嶋さんは、水温が上がっていることをアジの動きでも実感する。「毎年北風が吹くころになると、アジは東京湾から外へ出て南に行ってしまう。羽田あたりはいなくなるんだよ。それがこの冬はどうだ。ずっとアジがすみ着いて、とうとう冬を越してしまったね」

 中学生のころから家業を手伝い、海に出てノリの養殖やウナギ釣りをしてきた石嶋さん。「今は埋め立てられマンションなどが立っているが、東雲(しののめ)あたりは遠浅でいい砂地だった。深川のノリは味が良くて、人気があったよ」と振り返る。

 ノリの養殖をやめた後も、釣り船、やがては屋形船も手掛け、今に至る。海と共に生きてきた人生だから、海の変化には敏感だ。「温暖化が北上しているんだよ。これまで取れなかった魚が取れ、取れていた魚が取れなくなるのかな…」

 埋め立てが進み、大きく姿を変えてきた東京湾。江戸前の海はまた変化の岐路にあるのかもしれない。水温だけでなく、水質もまたかつてとは変わってきた。

 「下水処理などの水質浄化で、水はきれいになったが、それが過ぎるとリンや窒素など海の生物に必要な栄養が少なくなる。一方で塩素が強くなって、磯が枯れ、これまで藻類を食べていた魚が、ノリを食べるようになった」。県漁連の担当者はそう指摘し、警鐘を鳴らす。「来年は東京五輪。五輪に向け、さらに海をきれいにといわれている。心配ですよ」 

「冬場でもアジが釣れて驚いた」と話す石嶋一男さん=東京都江東区で(伊藤憲二撮影)

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◆60年間で1度高く

 東京湾の水質調査を一九四七年から継続している千葉県水産総合研究センターの担当者が、四月発行の雑誌「海洋と生物」(生物研究社発行)で、二〇一六年までの調査データをもとに水質の長期変動と水産生物への影響について報告している。

 それによると、東京湾中央部の水温は表層(水深〇・五メートル)、底層(海底から一メートル)とも上昇傾向にあり、二〇一五年までの六十年間で表層水温は一度、底層は〇・九四度上昇していた。

 さらに秋冬季の水温上昇、栄養塩濃度の低下が一六年までの十年間でより顕在化しており、水産生物への影響も検討する必要がある、と指摘。想定される影響について「ノリ漁期の短縮」などを挙げている。 

 

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