東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

<心を取り戻せ ゲーム障害との闘い> (下)依存ない「楽園ネズミ」

久里浜医療センター院長の樋口進さん

写真

 「われわれはさまざまな依存症を診察する責任がある。ゲーム障害の人々への適切な措置を求めたい」

 スイスで開かれた五月の世界保健機関(WHO)総会を前に、こんな要望書がWHO事務局へ届いた。その数、約八十通−。世界精神医学会や日本小児科学会など、各国の医療関係者からだった。

 その要望書の「仕掛け人」が、日本の医師である。国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の院長、樋口進。国内初のインターネット依存専門外来を設けたパイオニアとして、国内外の学会に働き掛けた。

 「WHOが依存症だと正式に認めれば、対策は進むはずだ」

 樋口の狙い通り、ゲーム障害が国際的な病気の分類に加えられることが、WHO総会で決まった。

     ■

 依存症の治療では通常、患者から依存の対象物を無理に取り上げることはしない。再び入手すれば元のもくあみなので、最終的には患者自身がやめようと思わなければならない。

 ゲーム障害で難しいのはそこだ。「大人は『酒に溺れては将来まずい』と頭では理解できる。でも、理性が発達途上の子どもに『ゲームを続けたら良くない』と納得してもらうのは大変」と樋口は語る。

 このため久里浜医療センターでは、患者同士のディスカッションやスポーツ、高原でのキャンプ体験などを組み合わせ、ゲーム以外の喜びを感じてもらいながら「ゲームをやめる決断」を促している。

周愛荒川メンタルクリニックの八木眞佐彦さん

写真

 一方、周愛荒川メンタルクリニック(東京都荒川区)の精神保健福祉士、八木眞佐彦は、あらゆる依存症の根っこにある「生きにくさ」に目を向ける。

 父親の不在に母親の過干渉、いじめ…。ゲーム障害の子どもは家庭や学校に問題を抱えているという。「個性や能力を無視した受験や習い事、叱責(しっせき)や否定ばかりでは、心に大きな苦痛を抱える」と指摘する。

     ■

 国の統計によると、昨年の中高生の自殺は三百六十二人。ほぼ毎日一人が命を絶っている計算だ。「ゲームで心の苦痛を忘れられるのなら、ゲームは自殺を防ぐ『心の杖(つえ)』になっているんです」

 しかし、それが度を越すとゲーム障害という新たな問題を抱えるだけ。どうしたら良いのか−。

 八木が紹介するのが、カナダの大学でのネズミの実験。依存性の非常に強い薬物「モルヒネ」を水に薄め、二カ月間与える。

 一つは、狭苦しい檻(おり)に一匹ずつ飼育した「植民地ネズミ」。もう一つは、広くて居心地の良い環境に複数の雄と雌を一緒に飼育した「楽園ネズミ」。

 植民地ネズミはモルヒネ水を飲み続けたが、楽園ネズミは普通の水を選び、依存にならなかった。そこにヒントがあるという。

 「孤立の病」といわれる依存症。何より必要なのは疎外感、心の苦痛を取り除くこと。「親が子どもの『批判者』ではなく『協力者』となり、寄り添うことです」と八木は言う。

 「しかし、現実には親自身が孤立し苦しんでいる。まず、親が家族の集まりなどに参加し、人とのつながりを実感するところから始めてほしい」 (文中敬称略)

 =この連載は臼井康兆が担当しました。

<世界保健機関(WHO)とゲーム障害> WHOは5月の総会で、病気や死因の分類に関する国際的な基準である「国際疾病分類」にゲーム障害を盛り込むことを決め、新たな依存症として正式に認定した。アルコールやギャンブルへの依存と同じ扱いとなる。これにより、ゲーム障害の医学的な研究が進んだり、行政の対策が進んだりすることが期待されている。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報