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【社会】

訴えた思い捨てられた 裁判記録廃棄 嘆く元原告ら

原告として取り組んだ国籍法違憲訴訟が記された教科書を示しながら、同裁判の記録廃棄で「自分の何かが捨てられた」と話す三好真美さん=7月

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 日本国籍を求め、フィリピン人の母を持つ小学生の原告として法廷に立った。最高裁が訴えを認めた違憲判決はトップニュースになり、国籍法が改正され、違憲立法審査権の例として教科書に載った。だがその裁判の記録はもうない。戦後重要憲法裁判の記録が多数廃棄されていたことが判明。国籍法違憲訴訟元原告の三好真美さん(21)は「自分の中の何かが捨てられた」と感じている。 

 「え、裁判の記録って捨てていいものなんだ」。七月初め、記録廃棄を共同通信の取材で知り、考えた。「あの裁判、ちっぽけなことだったのかな。残すほどでもないものなのかな」

 両親の婚姻の有無で子の日本国籍取得を差別する国籍法は違憲と訴えた裁判。提訴時は七歳、土日は遊びたいのを我慢して裁判所に出す署名を他の原告や家族と集めた。法廷での意見陳述を考え、家で練習した。記者会見の質問に備え、左の手のひらにメモを書いた。

 自分の中では「ちっぽけ」じゃない。日本国籍を持つ外国系の若者と会うと、自分が頑張ったことと関係あると思う。「(外国系の)子どもたちの人生を変えたと思ってますもん。何百人…何万人まではいかないかもしれないけど」

 最高裁の国籍法違憲判決は二〇〇八年六月、同時に二件言い渡され、今回調査対象の「憲法判例百選I、II」に掲載されたのは三好さんが原告でない方だが、二件の内容は実質同じ。三好さんの記録も廃棄されていた。

 三好さんは、どんな裁判の記録も保存してほしいと話す。「過去の裁判のことを記録を読んで学ぶ人もいるはず。未来に残すものだと思う」

 記録が捨てられた他の訴訟関係者もショックを受けた。沖縄の米軍用地強制使用を巡る代理署名訴訟で大田昌秀知事(当時)を支えた弁護団事務局長の池宮城紀夫(としお)弁護士は「残念極まりない。復帰後裁判史で重要な訴訟。裁判所の資料でなく国民の財産だ」と話す。

 北海道長沼町議の藪田享さん(69)=共産=は一審で「自衛隊違憲」判決が出た長沼ナイキ訴訟に取り組んだ。提訴時十九歳、年少で原告に加わらなかったが「原告以上に闘い、最高裁にも行った。この記録は憲法改正論議の上で将来も重要な公文書なのに」と悔しがる。

 公立中生徒の思想信条の自由が議論された「麹町中内申書訴訟」原告だった保坂展人・東京都世田谷区長(63)は「訴訟にかけた十六年を捨てられた思い。当時珍しかった『子どもの教育権』『学ぶ自由』が提起され、歴史にたえる資料だ」と批判した。

 各国の司法文書保存、管理制度に詳しい浅古弘・早稲田大名誉教授(法制史)によると、米国やフランスなどでは多くの裁判記録が永久保存され、歴史的な検証や研究に活用される。米国各地の連邦公文書館地域分館の中には資料の八割近くを訴訟記録など司法文書が占めるものもある。

 重要憲法裁判の記録が捨てられる日本の事態はこれらの国では「考えづらい」と浅古名誉教授は指摘。国の公文書館が文書の適正な保管や管理を指導監督する国が多く、省庁の利害や「事なかれ主義」から資料廃棄に流れることを防ぐという。

 浅古名誉教授は、裁判所の判断過程を検証するには裁判記録が不可欠だと指摘。保存のための施設や人員増も必要になり得るが、権力を検証、監視する公文書保存のコストは「米国では自由や民主主義を守るため必要と理解されている。日本でも国民の理解が必要になるだろう」と述べた。

 

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