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【社会】

ウナギ産地 広がる闇 密売「みんなやってるよ」

シラスウナギを捕る漁具を手に、架空領収書など密売の手口を話す漁師=浜松市内で

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 令和の今夏も日本中で大量のウナギが消費されるが、その背後には漁獲量の減少や価格高騰、密売・密漁の存在など多くの問題が横たわる。今、産地では何が起こっているのか。 (飯田樹与)

 「これ、みんなやってるよ」。浜松市内の喫茶店で、男性がくぐもった声でつぶやきながら、片方の手のひらを顔の前で何度か振った。

 男性は静岡県知事の許可を得てニホンウナギの稚魚シラスウナギを捕る漁師。手のひらを振るのは仲間内で通じるしぐさで「良くない状態」を指す。不漁の時などにも使うが、男性の言う「これ」とは“密売”を意味していた。

 絶滅危惧種ニホンウナギの国内有数の産地、浜名湖を抱える静岡県では、資源保護などのため、漁業調整規則で漁師が捕ったシラスウナギを地元の養鰻(ようまん)組合に出荷するよう定めている。指定先以外に売れば密売となるが、男性自身も「これ」をしたことがあるという。養鰻組合の正規の買い取り額は今季のピーク時で一キロ当たり九十五万円。これに対し、県外に売ったという男性は「百八十万円の闇値が付いた」と証言する。

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 売りたい漁師と、買いたい養鰻業者、双方のあうんの呼吸でそれはなされる。

 例えば領収書。養殖業者には池に入った稚魚の数量や仕入れ先を国に報告する義務があり、正当に仕入れたように見えるだけの領収書は用意しておきたい。

 「公衆電話に電話帳あるでしょ。適当に開いたページの住所や名前を領収書の発行元の所に書いて(業者に)渡すんだよ」。男性がさらりと言った。

 男性から買ったことがある業者の関係者は「こっちで領収書を用意してもいいが、一緒の筆跡になっちゃう。漁師ごとに書いてもらうが、他人の名前を書くしかないでしょ」と打ち明けた。業者の手元にはでたらめな領収書が積み上がるが、発行元まで調べられることはまれ。万一、発覚しても「大ごとにはならない」との読みがある。

 今年三月に発覚したケースでは、三重県の養鰻業者に密売した静岡県の漁師ら十五人ほどが名古屋国税局に七年にわたる総額四億円の所得隠しを指摘され、合わせて一億円余を追徴課税された。ただし、あくまでも税務上の問題で、刑事罰や採捕権の剥奪など行政処分は科せられていない。

 県西部の養鰻関係者は「リスクがあっても高い方に売りたいという漁師は多い。静岡では(密売をしない)白い漁師を見つける方が難しい地域もあるんじゃないか」と嘆息する。密売の背後に見え隠れするのは、稚魚を捕れる産地が、捕れない産地の“漁場”になっている実態だ。

 「悔しいけど、土用の丑(うし)に間に合うようにサカナをつくってくる」。稚魚、成魚の流通ルートを知り尽くす静岡県内の問屋の男性社長は「(大産地の)愛知の池の人が『何とか持ってきてくれよ』と。それが相場をつくっている」と解説した。

◆静岡県で調査 採捕4団体「密売見聞き」

 静岡県養鰻協会は今年6月、「白いダイヤ」と呼ばれ、高額で取引されている稚魚のシラスウナギの密売の実態を探ろうと県内の採捕団体に初めてアンケートを実施。全19採捕団体に質問用紙を郵送し、18団体から回答を得た。密売を見聞きしたことがあるかを尋ねた結果、4団体が密売を見聞きしたことが「ある」と答えた。「ない」とした3団体も直接ではないが「うわさは聞いた」などと回答した。

 「ある」とした団体のうち、県西部の団体はその時期を直近の漁期(2018年12月〜19年4月)中に当たる「5カ月前」とした。他の団体は15年前や2年前など時期にばらつきがあり、密売が特定の期間ではなく、継続して行われている様子がうかがえる。

<ニホンウナギ> 稚魚シラスウナギの漁獲量が減少し、2014年に国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定された。日本のウナギ食の影響で激減し、既にワシントン条約の規制対象となっているヨーロッパウナギ同様に、国際取引を規制すべきか議論されている。

 

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