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【社会】

<つなぐ 戦後74年>戦災樹木の記憶、後世に 研究者ら3D・超音波調査開始

東京大空襲で被災したイチョウを、3Dレーザースキャナーで調査する研究グループ=東京都墨田区の飛木稲荷神社で

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 空襲や原爆の傷痕を残す樹木は、戦争の「生き証人」として時を刻んできた。もの言わぬ戦争遺跡の歴史的価値に光を当てようと、複数の大学の研究者らが協力して東京都内で調査に乗り出した。樹形を3D画像で記録し、幹の内部も調べる初めての試み。戦後74年を経て今、戦災樹木が問いかけるものは−。 (大沢令)

 真夏の日差しが照りつける今月二日、筑波大、明治大、東京農大、千葉大の研究者が東京都墨田区の飛木(とびき)稲荷神社に顔をそろえた。調査対象は、境内にそびえる天然記念物のイチョウ。樹齢五百〜六百年と推定され、約十万人が犠牲になった一九四五(昭和二十)年三月十日の東京大空襲による火災で焼け、黒い焦げ痕を今も見ることができる。

 3Dレーザースキャナーからレーザーを照射。現時点の樹形を立体的に視覚化できる精密なデータを取った。今後、幹や枝が枯れたり傾くなどの変化を判断する目安になる。幹回りにはセンサーを付け、超音波で幹内部の腐朽や空洞の進行などの健康状態も調べた。

 千葉大博士課程で日本学術振興会特別研究員の根岸尚代さんは「生きた戦争遺産として戦災樹木の役割や価値はさらに高まっていく」と説明。「適切な保全活用に向け、行政の施策などに反映させていくための学術的根拠を示したい」と調査の役割を語った。

 東京大空襲は、火災がどのように広がって犠牲者が増えたかなどのデータが乏しく、戦災樹木の調査が被害の実態解明に新たな光を当てる可能性もある。東京大空襲の初期火災域と住民の避難傾向の関係を研究する田中禎昭専修大准教授は「焦げた側が分かれば、延焼の広がりや避難ルートと重ねて空襲実態を復元する重要な手掛かりになる」と指摘する。

 広島、長崎市では原爆で被爆した樹木の保全が進んでいる。広島市は一九九六年度から、被爆樹木の登録制度を開始。爆心地からおおむね半径二キロ以内で被爆樹木百六十本を登録し、定期的に樹勢を診断するモニタリング調査をしている。長崎市も把握する四十六本に年一回の健康診断を実施。所有者に保存整備費を補助する制度があり、個人所有の樹木にも被爆した樹木を紹介するプレートを設けている。

 こうした被爆樹木も、保存に向けて同様の方法で調査する計画だ。筑波大の鈴木雅和名誉教授(環境デザイン)ら研究グループは「調査が戦災樹木を守るきっかけになれば」と期待する。

 長崎市の担当者は「被爆者の高齢化で被爆体験の継承が課題になっている今、将来にわたり被爆の悲惨さを伝え続ける貴重な遺構として大切に保存すべきだ」と、被爆樹木の保全の意義を強調した。

 

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