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【社会】

<税を追う>保険財政 強まる危機感 処方薬→市販薬試算

白血病治療薬キムリアの保険適用が決まった日、記者会見した健保連の幸野理事(右)と協会けんぽの吉森理事=5月15日、東京・厚生労働省記者会見室で

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 保険財政の破綻を回避しようと、健康保険組合連合会(健保連)が二千百億円に上る医療保険財政の削減案をまとめた。湿布代や花粉症治療薬などを保険の適用外とすることで、増え続ける国民の医療保険料や税負担の緩和につながると期待する。日本医師会などは「患者の受診抑制になりかねない」と強く反対しており、国民皆保険を持続させるための本格的な議論が求められる。 (井上靖史)

 「薬局で買えるような薬は医師に処方してもらわなくてよいのではないか。本当に高額で、個人で負担しきれない薬に保険適用は限っていくべきだ」

 今年五月、厚生労働省。白血病治療薬キムリアの公定価格(薬価)が三千三百四十九万円と中央社会保険医療協議会(中医協)で決まったことを受けた記者会見で、健保連の幸野庄司(こうのしょうじ)理事は訴えた。同席した中小企業の健保組合「全国健康保険協会」(協会けんぽ)の吉森俊和理事も、隣でうなずいた。

 健保連や協会けんぽは「団塊の世代が七十五歳に差しかかる二〇二二年以降、保険財政が危機的な状況を迎える」と、危機感をいっそう強めている。後期高齢者医療制度や国民健康保険(国保)などへ出す支援金が大幅に増え、一人当たりの年間保険料が平均五万円(企業と原則折半)増えると試算。そこに現れたのが高額薬のキムリアだった。

 軽症の処方薬を保険の対象から外す対策は、これまでも少しずつ実行されている。二〇一二年度以降、栄養補給を目的としたビタミン剤やうがい薬の単独処方が保険適用から外された。湿布の処方も一回の診察で七十枚までに制限された。

 医療費に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「湿布をたくさんもらってためたり、市販で買える軟こうを処方されるようなモラルハザードも起きている」と話し、保険適用の厳しいチェックが必要と指摘する。

 医療の不適正な利用もたびたび問題視されているが、これまで抜本的に議論されてきていない。背景について、医療費の議論に携わる関係者は「日本医師会の政治力が大きいと思う。政府は医師会の反対する方針に踏み出しにくかったのだろう」と話した。

 医療機関にとって、患者がドラッグストアで直接薬を買うようになれば、初診料や薬の処方せん料などの収入減につながるからだ。

 患者に初期判断を任せることを危ぶむ声も多いが、それでも健保連の幸野さんは「再生医療など既存の概念を超えた医薬品が保険適用され始めている。画期的な薬だけに価格は従来とは桁違いだ。医薬品の概念が変わってきたのだから、制度も時代に適合したものに見直すべきではないか」と訴える。

 健保連はまた、市販薬で代替できる医療用医薬品について、病気の重さに応じて患者の負担割合を変える手法も検討。抗がん剤など重症に対する医薬品は自己負担ゼロとし、以下、病気に応じて負担割合を35〜100%とする。より重度の患者を保険で確実にカバーする狙いで、フランスが導入している。導入した場合、健保連の試算では、千八百六十億円の医療保険財政の削減につながるという。

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