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【社会】

表現の不自由展中止 津田大介さん「回復の手だて全力で探る」

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 八月一日から十月十四日まで愛知県で開催され、筆者が芸術監督を務める国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」内の一企画「表現の不自由展・その後」を巡って、連日メディアがさまざまな観点から報道している。現在進行中の事象であり、筆者は当事者でもあるため、今回は自身の考えを述べるより、ファクトベースで整理することで、この複雑な問題を理解する手助けとしたい。

 元々の発端は、トリエンナーレ開幕前日、七月三十一日の中日新聞、朝日新聞の朝刊で「表現の不自由展・その後」の具体的内容が報道され、その中に二〇一一年、在韓日本大使館前に設置された《平和の少女像》が含まれることが明らかになったことだ。一日に開幕してからは、同作品だけでなく、昭和天皇の肖像をコラージュした自作を燃やす映像作品を展示したことも含めて波紋を呼び、河村たかし名古屋市長や、松井一郎大阪市長が展示内容を批判。菅義偉官房長官は文化庁のトリエンナーレへの補助金交付について「事実関係を確認・精査した上で適切に対応していきたい」と述べた。

 これらの発言も後押しとなり、連日トリエンナーレ事務局に大量の電話抗議や脅迫が殺到した。二日早朝には、ガソリンを使ったテロを示唆する脅迫ファクスまで届き、現場の事務局機能が完全に麻痺(まひ)してしまった。

 現場の混乱の報告を受けた大村秀章愛知県知事(あいちトリエンナーレ実行委員会会長)は、このままでは円滑で安全な運営ができないと判断。三日十七時に記者会見を行い、三日をもって「表現の不自由展・その後」の展示を中止すると発表した。

 ガソリンテロを予告したファクス脅迫犯は七日に逮捕されたが、五日から断続的に「県庁職員らを射殺する」「県内の小中学校、高校、保育園、幼稚園にガソリンを散布して着火する」といった脅迫メールが七百七十通、愛知県の関連施設に届いており、こちらの脅迫犯はいまだ逮捕されていない。

 他方で、「表現の不自由展・その後」の展示中止は、ほかのトリエンナーレの参加作家にも大きな影響を及ぼした。展示中止を受け、韓国の二作家が展示を中断。十二日には、十一組の海外作家と芸術祭の国際現代美術展キュレーターの一人が連名でトリエンナーレ事務局に対する書簡を発表。今回の措置を「検閲」であると批判し、検閲された作家への連帯を示すため、展示の一時休止や展示内容の変更措置を二十日から行っている。大村知事も筆者も今回の件は政治家の圧力による「検閲」は否定しており、今回の件は「表現・文化・芸術に対する攻撃」であると認識しているが、参加作家たちからは今回の措置が(結果的にであったとしても)「検閲に加担した」と見られているということだ。このことは重く受け止めなければならない。

 今回は芸術分野で起きた騒動であるが、表現の自由が毀損(きそん)されたという意味では、メディアも対岸の火事ではいられない。作家や県民と議論しながら、残りの会期で毀損された表現の自由を回復する手だてを全力で探りたい。それが芸術監督として、ジャーナリストとしての責任の取り方であると思っている。

 

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