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【社会】

失った機能補う医療次々 遺伝子改変技術取り入れ iPS角膜移植

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 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った再生医療の臨床研究や治験が次々と始まった。必要な量まで増やした上で欲しい種類の細胞に成長させ、病気やけがで機能を失った臓器に移植するもので、大阪大チームが試みた目の角膜の治療も同じ方式だ。一方、次世代の治療に向けた研究も進む。細胞の機能を人工的に高める遺伝子改変技術を取り入れるのが、有力な方向性の一つとされる。

 ■人で効果実証

 臨床研究の第一号は二〇一四年の理化学研究所チーム。iPS細胞から網膜の細胞をつくり、視界のゆがみや視力低下が起きる加齢黄斑変性の患者に移植した。

 また、京都大では神経細胞をパーキンソン病の患者の脳に移植する手術を実施、血小板を貧血の患者に輸血する計画も進める。大阪大は心筋細胞をシートにし、重症心不全の患者に移植する予定。慶応大は、交通事故やスポーツ中の事故による脊髄損傷を、神経のもとになる細胞で治療する臨床研究を始める。

 いずれも一一〜一三年度から政府が支援し、五〜七年で臨床研究に進むことを目指した研究プロジェクトで、いわば第一世代の治療。細胞や動物の実験を経て「本当に人間の患者を治せるのか」が試される段階まで来た。

 ただ、再生医療に詳しい国立成育医療研究センターの阿久津英憲部長は「まだ始まったばかり。安全性と効果を一つ一つ確かめる必要がある」と慎重な見方だ。

 ■コストダウン

 遺伝子改変の技術を取り入れ、新治療の開発や普及のためのコストダウンを狙う研究も進む。

 がんを排除する免疫細胞を血液がんの患者から採取し、遺伝子を改変し攻撃能力を高めた上で体に戻す「CAR−T(カーティー)細胞療法」は今年、公的医療保険が適用された。ただ価格は約三千万円と高い。理由は患者自身の細胞を採取し、専用施設に輸送して加工するためだ。

 あらかじめ用意した他人のiPS細胞からCAR−T細胞をつくれば、細胞の加工や輸送のコストを減らせる可能性がある。武田薬品工業は京都大と連携し、治療法の開発を始めた。

 こうした他人の細胞を使う医療の基盤になるのが、成長能力の高いiPS細胞を作って備蓄しておくストック事業。必要な時に素早く大量に細胞を用意でき、コストも大幅に下がるとされる。

 ストックは一三年から京都大が国の予算で運営してきたが、今後は外部の財団法人に移管する。細胞の製造と販売に集中し、収益で持続的に運営できる体制にするためだ。

 その一方、京都大は基礎的な研究に注力する。移植した際の拒絶反応を極力抑えるため、遺伝子を効率的に改変するゲノム編集技術で、誰の体にも受け入れられるiPS細胞を作製。限られた数の備蓄細胞でも、世界の大半の人に安全に移植できるようにする考えだ。同様の細胞は米国のチームも開発を試みている。

 山中伸弥・京都大教授は「他人のiPS細胞を使った再生医療は国際競争の真っただ中。この五年が勝負だ」と語った。

 

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