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【社会】

監査法人から転職 数字のプロ、職場は警察 詐欺、粉飾… 見逃さない

書類とパソコンに向かって仕事をする財務捜査官=東京・霞が関の警視庁で

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 高齢者の金を狙った企業の詐欺事件などで、公認会計士や税理士として民間で経験を積んだ専門性の高い「財務捜査官」のニーズが高まっている。複雑な金の流れを解明するためだ。どんな捜査をしているのか。「数字の鑑識」の仕事をのぞいた。 (木原育子)

 カタ、カタ、カタ…。警視庁生活経済課の事件の帳場(捜査本部)に通う山田尚幸警部(41)=仮名=が右手で帳簿を一枚一枚めくりながら、左手で電卓を見ないまま高速で打ち込んでいく。

 「数字は無味乾燥に見えるけど、人の動きが必ず反映される」。数字に隠された不正を見抜くのが仕事だ。会計帳簿の数字を棒グラフや折れ線グラフにして分析したり、業界動向を把握するために経済紙を読み込んだり。「売り上げなどの数字は、前の年や同業者と比較してこそ意味を持つ」が持論だ。

 ん…。ある企業の損益計算書を見ていた山田警部の視線がぴたりと止まった。「いじっているな」。同僚の財務捜査官らに連絡を取って意見を求めた。「この数字の動き、何だか変ではないですか?」

 磁気治療器の預託商法で高齢者七千人から金を集め、二千四百億円の負債を抱えて破綻した「ジャパンライフ」や、通販業「ケフィア事業振興会」など大型消費者事件を手掛ける生活経済課。「違和感のある数字を見つけると胸騒ぎがする」と山田警部。売り上げが増えたのに経費は一定など、会計の原則に照らして不自然な点を見逃さない。これまでの蓄積で養った職業的な勘も不正を見抜く端緒だという。

 山田警部は二十六歳で難関の公認会計士試験に合格。二〇〇四年、大手監査法人に就職した。しかし、〇五年七月、大手化粧品会社カネボウの粉飾決算事件で、勤務先が不正会計に関わったとして東京地検特捜部の捜索を受けた。捜査員が資料を段ボールに入れて運び出す姿に「捜査権限の強さを目の当たりにした」。同僚が逮捕され、衝撃を受けた。

 財務捜査官への転身は、新聞の募集を見たのがきっかけ。会社や顧客のために尽くす監査法人と違い、捜査機関がとことん真相を追及する姿を思い出し、「知識を社会に役立てたい」と警視庁の門をたたいた。

 一二年、三十三歳で警部補として採用。被害者と直接顔を合わせる機会はなく、まだ感謝の言葉をもらったことはないが、「罪を犯した人は法で裁かれなければならない。その一端を担うことで被害者に寄り添いたい」と使命感を語る。

 課題は、知識やスキルの向上。詐欺などの手口は巧妙化し、捜査側との知恵比べが続く。「常に学ぶ姿勢がなければ対応できない」と山田警部。「現状維持は堕落の始まり」と自らを戒めつつ、投資話を巡る高齢者の被害が多発していることに、こう呼び掛ける。「甘い話はありません。気をつけてください」

◆財務捜査官 14都道府県に48人

 警察庁によると、財務捜査官は警視庁、愛知、北海道、大阪、福岡など十四都道府県警に計四十八人いる(今年四月現在)。このうち、三分の一以上の十七人が警視庁に勤務している。

 警視庁人事二課の担当者は「財務捜査官の役割は増している」。今後も採用を続ける方針といい、民間で五年以上の職歴があることなどが条件だ。主に詐欺、背任などの知能犯罪を扱う捜査二課、暴力団犯罪を摘発する組織犯罪対策四課などに配属されている。

 バブル崩壊で金融機関の乱脈融資による不良債権が発生。一九九四年から都道府県警ごとに、民間で経験を積んだ公認会計士や税理士など専門職の採用を始めた。九九年に日本長期信用銀行(当時)の旧経営陣が逮捕された粉飾決算事件などで活躍が知られた。

 警視庁では、民間の専門性の高い人材を確保しようと、財務捜査官の他にもサイバー犯罪捜査官、電子機器の解析などを担う科学捜査官の採用を進めている。

 サイバー犯罪捜査官は五十七人おり、五年前の約一・五倍に増えている。

 

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