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【社会】

<取材ファイル>熊本地震で被災 益城の理髪店 そこに仮設がある限り

仮設団地に構えた店舗で入居者の髪を切る吉本洋子さん

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 二〇一六年四月、二度の震度7が襲った熊本地震の発生直後の一週間、熊本県益城町などの被災地を取材した。避難所にいた人たちに再会したいと、この夏、熊本を訪ねた。地震で理髪店が大規模半壊した吉本洋子さん(66)=益城町=は仮設団地に店を構え、営業を続けていた。がれきの中から取り戻したという「命の次に大切なハサミ」を手にして。 (奥村圭吾)

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 真夏の日差しが照り付ける益城町。道路脇には、五十センチほどずれた断層が今も残る。崩れた家々は新築されたり、更地になったり。ふぞろいな町並みが、復興はまだ道半ばだと伝えている。地震直後、波打った路面やがれきを乗り越えて歩き、被災者の声に耳を傾けた記憶がよみがえった。

 震災三カ月後に造成された県内最大規模の「益城町テクノ仮設団地」。灰色のプレハブが並ぶ光景に、少し緊張しながら、中心部の仮設商店街を目指した。

 赤、白、青のサインポールが回るプレハブの理髪店「カットサロン らいむ」で、吉本さんが軽快なリズムで髪を切っていた。

 自宅が大規模半壊し、夫や娘の家族と身を寄せていた避難所で取材させてもらって以来。「あれから、なんとか元気にやってきましたよ」。穏やかな笑顔に、ほっと胸をなで下ろした。

 地震直後、崩れた店に商売道具を取りに帰ろうとすると、「こんなときにバカじゃないの」と家族に猛反対された。それでも、何よりも大切な使い慣れた十本のハサミとくし。「そこまで言うなら」と娘たちが、がれきの中から命懸けで見つけ出してくれた。

 避難所では一カ月間、そのハサミを使い、被災者の髪を無償で切り続けた。「元の生活を取り戻したい一心でした」。子どもやお年寄りがどっと列をなした。

 震災三カ月後には仮設団地で理髪店を開業。一六年末には、益城町内のかつての店とは別の場所に店舗兼住宅を再建した。今は二つの店を掛け持ちし、自宅にある店を週二日休み、仮設の店に通う。「足腰が弱く、車を運転できないお年寄りもたくさんいる。やめるわけにいかない」

 仮設団地の店に通う福田チヨノさん(90)は「地震や昔の話を優しく聞いてくれて、ようしてもらいよります」。同じ団地の山本カツ子さん(85)も「近くにいてくれてありがたい。心安らぐ、癒やしの場です」と目尻にしわを寄せる。

 「お客さんに励まされ、生きる力をもらってきた。仮設がある限り、営業を続けていきたい」と吉本さん。被災者同士が支え合い、苦境を乗り越えてきた姿に、人間のぬくもりと生きる強さを感じた。

熊本地震で大規模半壊した「カットサロンらいむ」=いずれも熊本県益城町で

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