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【社会】

<税を追う 製薬マネーの行方>(1) 「もっと出せ」迫る医師 奨学寄付金で業者選別

研究費や寄付が集まりやすいとされる東京大。それでも運営費交付金は年々減額されていると医師らは話す=東京都文京区で

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 「ふざけてるのか。これでは奨学寄付金を出していないのと同じだよ」。東京大に勤務する五十代の男性医師は製薬会社の営業担当者(MR)の男性を怒ったという。数年前のことだ。

 医師が所属する研究室に製薬会社が提供した「奨学寄付金」が十万円だったからだ。「かなり薬を使っていた会社なのに、予想した額より随分少なかった」と医師が振り返る。増額を迫ったが、MRは「すいません」と謝るばかりだった。

 奨学寄付金は製薬会社が大学医学部に出す資金で、薬を売り込む営業の道具として使われる。使途に明確な制限がないため、教授らから重宝がられるという。

 研究室は秘書の給与や備品代などが必要だが、この医師によると、大学からの運営費交付金は多くの医師を抱える外科系の研究室でも年数百万円。少人数だと数十万円のところもある。

 「交付金は毎年減額されるので、(奨学寄付金のような)外部資金はとても重要」と東大の事務員。医師は「交付金は一人の医者が海外の学会に一度参加しただけで使い切ってしまうくらい」と言い、そこで複数の製薬会社からもらう奨学寄付金を当てにしている。「普段使っている薬の量を考えれば、五十万円くらいもらってもバチは当たらない」。医師は主張した。

 日本製薬工業協会(製薬協)に加盟する七十一社が二〇一七年度に出した奨学寄付金は総額二百九億円。全国に八十一ある全ての大学医学部が受けていた。

 ある大手製薬会社は数年前、北信越地方の国立大学病院の医師に対し、ライバルA社の後発薬(ジェネリック)として開発した抗がん剤を使ってもらおうと依頼した。しかし、「A社は協力メーカー。おたくは非協力メーカーだよ」と冷ややかに断られた。

 ジェネリックは先発薬の半値程度。薬剤費の節約には後発薬の方が良く、患者負担も減る。だが、医師が重視したのは研究室に入る奨学寄付金だった。この会社が年百万円なのに対し、A社は三倍程度だった。

 薬の納入を断られた会社の幹部は「医師に大学病院の経営が黒字か赤字かは関係ない。関心はメーカーが研究室にいくら持ってくるか。奨学寄付金を多く集めれば教授からの評価も高くなるからだ」と話した。

 メーカー側も医師をランク付けし、特に薬価が高い先発薬を使ってくれる医師の研究室へ高額な奨学寄付金を出す。寄付金を求める医師と先発薬を使わせたい製薬会社の「持ちつ持たれつ」の関係。それが年間四十二兆円の国民医療費の四分の一を占める「薬剤費」を押し上げる一因となっている。

 奨学寄付金は海外にはなく、日本独自のルールとされる。外資系のヤンセンファーマ社は「医療関係者との透明性を確保する」として一二年から奨学寄付金の提供をやめた。先の製薬会社の幹部が言う。「明らかにメーカーは奨学寄付金を薬の売り込みに使っている。奨学寄付金は廃止して、研究だけに寄付するような仕組みに変えていくべきだ」

 ◇ 

 保険料だけでなく、四割を税金で賄う国民医療費は年々増え続ける。巨額の薬剤費の背景に浮かぶのは製薬会社と医師との蜜月関係だ。医療界に流れる製薬マネーの行方を追った。

 (この連載は鷲野史彦、井上靖史、藤川大樹が担当します)

 ◆シリーズ「税を追う」へのご意見、情報を募集します。ファクスは03(3595)6919。メールはshakai@tokyo-np.co.jp、郵便は〒100 8505(住所不要)東京新聞社会部「税を追う」取材班へ。

 

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