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【社会】

<税を追う 製薬マネーの行方>(5) 情報公開阻む医師と業界

製薬マネーの透明化に向けた取り組みを振り返る田村憲久元厚労相=東京・衆院議員会館で

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 二〇一四年七月、厚生労働省大臣室。当時の田村憲久厚労相は、情報公開が進まない製薬業界にしびれを切らし、厳しく宣告した。

 「製薬業界が自ら襟を正し、自浄作用を示すことが重要です。皆さんがちゃんとやらなかった時は、それなりの対応をせざるを得なくなる」

 険しい表情で叱責(しっせき)を受けていたのは、大手を中心に製薬会社七十社余りが加盟する「日本製薬工業協会(製薬協)」の多田正世(まさよ)会長。製薬協は当時、各社から医師らへの提供資金を公開しようとしていたが取り組みは遅れていた。

 この前年、京都府立医大の臨床研究に参加した製薬大手ノバルティスファーマの社員が、降圧剤ディオバンの虚偽データを研究者に提供、効果が優れているという論文を書かせたことが発覚。同社がディオバンの臨床研究を行っていた五大学に計十一億円の奨学寄付金を出していたことも明らかになった。

 だが、事件が起きても業界の動きは鈍かった。田村氏は「多田会長は『大臣がそうおっしゃるなら、私も会員企業に厳しく言える』とありがたそうだった」と振り返る。

 米国の情報公開は日本より進んでいる。ある青年の死がきっかけだった。

 一九九九年、遺伝子治療の臨床研究に参加した十八歳のゲルシンガーさんが感染症で死亡した。担当医がこの治療に出資する企業の株主であり、自らの利益のために危険を知りながら臨床研究を強行したと批判された。事件後、法や業界の自主規制が進み、さらに一〇年に成立した医療保険改革法で製薬会社から医師へのあらゆる対価の提供が政府への報告対象となった。

 謝礼や寄付、株だけでなく食事や贈り物、娯楽なども含まれ、報告漏れには罰金が科される。一四年度から国の機関が医師六十万人分のデータを公開。欧州や英国でも自主ルール作りが進んだ。

 日本でも製薬協は一一年度、情報公開のガイドラインを作成している。一三年度から実施の予定だったが、医師側が「個人情報が悪用される」と反発。医師への提供資金の公開は一四年度に遅れた。加えて十三社がウェブで公開せず、会社に来ないと閲覧できない方式を予定していた。

 いら立ちを覚えた田村氏が多田会長を呼んだのは、こんな状況でのことだ。「だれでもチェックできるのが当たり前。そんなのはまずい」と、法制化もあり得ると伝えた。

 だが、今もまだ日本の情報公開は米国には遠く及ばない。米国は医師の名前を入力すれば、どの会社からいくら提供を受けたか一目で分かるが、日本は会社ごとにしか公開していない。しかも閲覧にはIDやパスワードの申請が必要な情報があったり、ウェブの画面は意地悪でもするかのように印刷できない設定にしたりしている会社が大半。

 さすがに厚労省は昨年、製薬会社が臨床研究を依頼する医師への提供資金を公表する際、IDなどで制限したり、印刷できないような閲覧方法を禁じた。

 肝心の医師ごとのデータベースを製薬協は「作成する予定はない」と否定する。

 田村氏は「医師が嫌がる情報公開はつらいのだろう」と踏む。製薬業界にとって薬の売れ行きを左右するのは、患者ではなく処方する医師だからだ。「それでも製薬協がデータベースを作るべきだ。それが薬への信頼につながる」

製薬・医療機器会社から医師らへの支払いを公開する米国の公開データベース。企業名や支払い内容が一目で分かる

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◆資金提供のDB作成へ 「ワセクロ」ら寄付募集

 ジャーナリズムNGO(非政府組織)「ワセダクロニクル」(ワセクロ)とNPO法人「医療ガバナンス研究所」は、二〇一七年度に製薬会社から医師に提供された「製薬マネー」の流れを検索できるデータベースを作成し、無料での公開を目指している。

 作成には、製薬会社のデータを取りまとめる学生アルバイトの人件費やサイト構築料の五百万円が必要で、ワセクロのホームページ(HP)で九月三十日まで、民間からの寄付を募る「クラウドファンディング」を実施している。

 ワセクロなどは、米国のように製薬各社から医師に提供される資金などを検索できるデータベースの作成が製薬業界で進まない現状を受けて、今年一月から、ワセクロのHPで、二〇一六年度分のデータベースの公開を始めている。

 寄付は、ワセダクロニクルHPの「DONATE(ご支援のお願い)」コーナー内のページ=https://motion-gallery.net/projects/money-database=へ。

 シリーズ「税を追う」へのご意見、情報を募集します。ファクスは03(3595)6919。メールはshakai@tokyo-np.co.jp 郵便は〒100 8505(住所不要)東京新聞社会部「税を追う」取材班へ。

 

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