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【社会】

<税を追う 製薬マネーの行方>(6) 製造費、中身うかがえず

6月8日に名古屋市内で開かれたシンポジウムで、講演する小島勢二・名古屋大名誉教授

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 小児がんの治療・研究を支援する一般社団法人「名古屋小児がん基金」が今年六月に開いたシンポジウム。理事長の小島勢二・名古屋大名誉教授が訴えた。「日本でキムリアが保険診療の対象になった。朗報だが、なぜこんなに薬価が高いのか」

 キムリアは従来の治療法が効かない一部の白血病患者らに効果が期待される新薬で、製薬大手ノバルティスファーマが製造・販売を始めた。

 患者の血液から免疫細胞の一つ「T細胞」を取り出し、遺伝子操作でがん細胞への攻撃力が高い「CAR−T(カーティー)細胞」を作製。増殖させて点滴などで患者に投与する。遺伝子操作に「ウイルス」を使うため、安全性確保などで製造コストがかさむ。

 五月に公的医療保険の適用が決まった際、投与一回当たり約三千三百五十万円という薬価が注目を集めた。

 名大でもカーティー細胞療法の研究を続け、信州大と共同で「酵素」で遺伝子操作する技術を開発。細胞の出現効率が向上し、ウイルス方式よりコストが安くなった。

 「大学や研究機関であれば二百万円程度で製造できる」と小島氏。製薬会社は製造施設の建設費や流通経費がかかるため、単純に比較できないが、それでも製造コストに大きな開きがある。

 昨年一月に厚生労働省の専門部会で臨床試験の開始が承認され、今後、名大病院で患者への投与が始まる。また、低コストに目を付けたタイの国立チュラロンコン大付属病院の依頼で、カーティー細胞の製造を支援している。

 キムリアのような細胞製剤や遺伝子治療薬の薬価が高くなる理由を小島氏は「大学や研究機関に支払う特許料やベンチャー企業の買収費が、薬価に乗っているからだろう」と推測する。

 「まるでブラックボックスだ」。キムリアの薬価が決まった五月十五日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、そんな声が上がった。

 問題視されたのは薬の製造費用(総原価)の開示の低さだった。キムリアの薬価は総原価に営業利益や流通経費を積み上げる「原価計算方式」で算定された。

 厚労省は新薬の価格を決める際、総原価の内訳を開示すればするほど薬価の上乗せ(補正加算)を多くする制度を採用しているが、キムリアの開示度は最低ランクの50%未満。満額加算なら薬価は一千万円以上高くなったにもかかわらず、補正加算の八割減を受け入れたのだった。

 ノバルティスは「開示できる部分は開示した。米国の製造施設は日本以外の国の分も製造しており、日本分の製造費だけを取り出すのは難しい」と説明する。ある大手製薬会社の幹部は「開示するぐらいなら、薬価が安くなってもよいと考えているのだろうか」といぶかしむ。

 小島氏は二年前、外資系製薬会社の代理店からメールを受け取った。新しい遺伝子治療薬の市場調査で「研究者として適当だと思う薬価をお答え下さい」。提示された価格は五千万円、一億円、二億円と大きな差があった。小島氏はあきれたように口にした。

 「製薬会社は実際にかかったコストではなく、『いかに高く売るか』で値段を決めているのではないか」

     ◇

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